そもそも錆の原因とは
錆は、隣接する金属、気体、酸、アルカリなどが元の金属と化学反応を起こして溶けて別の生成物を生む「腐食」の一種で、金属や合金がイオンを介して酸化還元反応を起こし元の状態から組成や結晶構造などが変わった腐食物です。このため酸素がない雰囲気中では錆びることはありませんが、大気中や水中など我々の周りには至るところに酸素や水分が存在します。このような環境下では、殆どの金属や合金は酸素と結合しエネルギー的に安定な状態へと遷移します(エントロピー増大に向かう)。
我々が目にする金属や合金の表面では、微視的に見れば程度の差はありますがイオン化された状態であると言えます。この程度の差が錆びに対する耐性を左右します。
同じ鉄でも良く目にする赤錆(酸化第二鉄:Fe2O3)と、見た目が黒い黒錆(四酸化三鉄:Fe3O4)があります。赤錆は放置しておくと進行し、穴が開いたり折れたりする原因になりますが、黒錆は表面を膜のように覆って内部がそれ以上錆びないように保護する性質があります。
このように、錆の発生は金属や合金に由るところが大きいものの、表面状態を積極的に変えるなど等で進行を遅らせたり、防いだりすることができます。
錆びと磁石材料の種類
錆びない磁石材料
フェライト系磁石
酸化物で構成されており既に酸素と結合した状態のため大気中や水中でも錆びることがない安定な磁石材料です。磁力は、最大磁気エネルギー積(BH)maxが焼結磁石で16~40kJ/m3(2~5MGOe)、ボンド磁石で~16kJ/m3(~2MGOe)とそれほど高い特性は得られない反面、安価なため様々な用途で使われています。多くはバリウム(Ba)フェライトやストロンチウム(Sr)フェライトの磁石です。一方で更なる高性能化を図った磁石としてSrフェライトに適量のランタン(La)とコバルトを含有した磁石があります。しかし、ランタンは希土類元素であり、コバルトも鉄に比べて高価な元素であるため従来のフェライト磁石よりも高値で流通しています。
錆びにくい磁石材料
アルニコ磁石・鉄クロムコバルト磁石
いずれもコバルト(Co)を多く含有する温度係数が小さい磁石材料です。いずれも合金系の磁石材料ですがコバルトを多く含む材料のため錆び難く殆どは磁石の塗装なしで使われています。特性は最大磁気エネルギー積(BH)max が12~80 kJ/m3(1.5~10MGOe)と高い磁力を持つ材料があるものの、高価格で供給が不安定なコバルトを多く含有していること、外部磁場に対抗する指標の保磁力(固有保磁力:HcJ)が10~170kA/m(0.13~2.1kOe)と低いことから近年は時計や計器など熱安定性が強く要求される一部用途での使用となっています。
サマリウムコバルト磁石
サマリウム(Sm)を多く含むSmCo5とこれよりもサマリウムが少ないSm2Co17の2種類がありいずれもコバルト(Co)を多く含有する温度係数が小さい磁石材料です。いずれも合金系の磁石材料ですがコバルトを多く含む材料のため錆び難く殆どは磁石の塗装なしで使われています。特性は最大磁気エネルギー積(BH)max が120~250 kJ/m3(16~32MGOe)と高い磁力を持つ材料で保磁力(固有保磁力:HcJ)が660~860 kA/m(8.3~10.8kOe)とNdFeB焼結磁石に次ぐ高い特性を持つ材料です。しかしアルニコ磁石や鉄クロムコバルト磁石と同様に高価格で供給が不安定なコバルトを多く含有していること、焼結磁石は脆く加工しづらいことから高温となる一部モータやセンサ等の用途での使用となっています。
また2013年にコバルト及びその無機化合物が特定化学物質の第2類に追加となってこともありコバルトを含有するこれら磁石は製造や加工などの取扱いで健康管理に留意しなければならない材料となっています。
サマリウム鉄窒素磁石
ネオジム鉄ボロン(NdFeB)磁石と同様に鉄(Fe)を多く含む希土類磁石材料で、当社はこの磁石材料を主力として製造・販売する数少ないメーカーです。サマリウム鉄窒素(SmFeN)材料はNdFeB磁石に比べて結晶構造に由来する錆び難さは持っているものの酸化されやすい希土類元素も含まれるため錆が生じます。住友金属鉱山のSmFeN磁石材料は独自の表面処理技術により磁石粉1つ1つに耐酸化処理を施しているので殆どの用途で磁石への表面コーティングがない状態でご利用頂いています。
理論的な材料特性ではNdFeB磁石を凌ぐ特性が出せるとされていますが、焼結磁石にすることが難しくSmFeN焼結磁石は現在市場には存在しません。一方で樹脂バインダーなどを用いたボンド磁石とすることは可能で、等方性NdFeBボンド磁石を超える最大磁気エネルギー積(BH)max が76~115 kJ/m3(9.5~14.4MGOe)の特性を射出成形磁石で実現し当社はこの射出成形ボンド磁石材料も製造・販売しています。
錆びやすい磁石材料
ネオジム鉄ボロン磁石
ネオジム鉄ボロン(NdFeB)磁石は焼結磁石とすることができるため工業用磁石材料としては現在最も高い最大磁気エネルギー積(BH)maxが230~415kJ/m3(30~52MGOe)の特性を持ち、風力発電やEVなど脱炭素化社会に向けては欠かせない磁石材料です。ボンド磁石も市販されており最大磁気エネルギー積(BH)maxが32~160kJ/m3(4~20MGOe)の特性を持ち広く利用されています。一方で錆びやすく、錆が内部まで進行してしまうという欠点があるため焼結磁石では表面コーティングが必須でボンド磁石でも多くが表面コーティングを施されて使用されています。
私たちからのご提案
~SmFeNからなる当社製品(Wellmax®-S3/S4)の使用~
SmFeN(サマリウム鉄窒素)からなる当社製品(Wellmax®-S3/S4)製品の磁石は、NdFeB(ネオジム鉄ボロン)磁石に比べて高温多湿環境や塩水雰囲気環境下での元素の溶出が少ない材料。赤錆は元素溶出によりFeが酸化することで発生します。NdFeB磁石では内部まで浸食が進み場合により形状が保てなくなる環境下でも、SmFeN材料は主に表面のみ錆びる程度です。
SmFeN-PA12射出成形品(S3A10M) | 等方性NdFeB-PA12射出成形品(7M級品) |
【錆評価試験】5%塩水噴霧試験_JIS Z 2371(5%NaCl, 35℃, 24h)成形体:φ20 x 13 mmh,塗装なし |
Wellmax®-S3/S4製品の特性は、フェライトボンド磁石以上の24kJ/m3(2MGOe)から、等方性NdFeBボンド磁石以上の111 kJ/m3(14MGOe) をカバーする材料です。しかも、SmFeN材料は供給懸念があるNd(ネオジム)やDy(ジスプロシウム)などの希土類元素を使用しない材料です。
可能性は無限大です
Wellmax®磁石材料は、等方性でも使えますが、より高い特性を得るには金型内に専用の磁気回路を構成して異方性磁石とする必要があります。住友金属鉱山では、豊富な知識と経験でこの異方化とお客様のオリジナル磁石の作製をサポートします。
Wellmax®によって実現した、発錆を「防ぐ」機能や、塗装時の環境リスクとコスト、原料リスクを「下げる」機能は他分野でも応用可能です。
あなたの持つイマジネーションを「Wellmax®」で実現してみませんか?
当社の希土類磁石材料製品(Wellmax®)については
希土類磁石材料
でご確認ください。
Related Documents 関連する資料
-
Wellmax®
ボンド磁石材料
INDEX- Wellmax® 磁石材料の特徴
- Wellmax® 高耐錆性
- Wellmax® 軽量化&コストダウン
- 射出成形による削減&差別化
-
Wellmax®-S1
異方性SmFeN磁石粉
INDEX- 組成
- 粒度分布と粒子形状SEM像
- 磁気特性と減磁曲線
-
Wellmax®-S3シリーズ
異方性SmFeN射出成形磁石コンパウンド
INDEX- 磁気特性と機械特性及び熱的特性
- 減磁曲線(含む温度変化)
- 着磁、配向、脱磁特性
- 経時変化(80℃90%RH、120℃Dry)
- 推奨成形条件
-
Wellmax®-S4シリーズ
異方性SmFeN-フェライトハイブリッドPA12射出成形磁石コンパウンド
INDEX- 磁気特性と機械特性及び熱的特性
- 減磁曲線(含む温度変化)
- 着磁、配向、脱磁特性
- 経時変化(80℃Dry)
- 推奨成形条件
-
Wellmax®-S5Pシリーズ
異方性NdFeB-SmFeNハイブリッドPPS射出成形磁石コンパウンド
INDEX- 磁気特性と機械特性及び熱的特性
- 減磁曲線(含む温度変化)
- 着磁、配向、脱磁特性
- 経時変化(80℃ & 150℃Dry)
- 推奨成形条件
Take part in X-MINING 各種お問い合わせ
X-MININGは、住友金属鉱山とあなたで新たな技術の創出や課題の解決に取り込むプロジェクト。お気軽にお問い合わせください。