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X-TALK Vol.4 プリンテッドエレクトロニクスの未来展望

日本におけるプリンテッドエレクトロニクスの技術開発の第一人者として物質・材料研究機構(NIMS)で研究を重ねる三成剛生先生は、IoTの技術が広まり半導体と周辺材料へのニーズが高まる中、低コストかつ無駄のない有機半導体デバイスの製造に向け、銅粉を使った塗布材料の開発に取り組んでいます。そのメリットや研究開発の裏側、研究の傍らで立ち上げたベンチャーでの事業などについて、当社新居浜研究所で微細銅粉の開発に携わる山岡尚樹が聞きました。

プリンテッドエレクトロニクスの未来展望

対談者プロフィール

SDGs的観点でも有益な「塗れる金属」

山岡 私は入社以来、新居浜の研究所で微細銅粉の研究をしています。その中で、三成先生が手掛けておられるプリンテッドエレクトロニクス材料、特に電極への応用が期待できる金属インクの開発・研究を非常に興味深く拝見していました。今日はぜひそのお話を聞かせていただけたらと思っています。まず、今の研究に具体的に取り組み始めたのはいつ頃からですか?
三成 実はかなり古くて、2009年頃だったと思います。
山岡 もう10年以上経つんですね。なぜそこに着目したのでしょうか。
三成 私はもともと2007年頃から有機半導体を研究していました。有機半導体は溶液に溶かして塗布できるのが一つの特徴です。その特性を活かし、塗るプロセスで有機半導体デバイス(導体・絶縁体・有機半導体で構成されるデバイスのこと)を作る研究をしていたのですが、塗布できる半導体や絶縁体はたくさんある一方、塗布できる金属はありませんでした。ならば、塗れる金属を作ればすべて塗る工程だけで有機半導体デバイスが作製できるのではないかと思ったんです。

山岡 塗る方法以外だと、例えば蒸着やスパッタですか?
三成 そうですね。蒸着やスパッタなどの方法があります。蒸着は金属を加熱蒸発させて、スパッタは金属にアルゴンを叩きつけて飛び出した金属原子で膜をつける方法ですが、どちらの方法も真空の状態を作らなければいけません。大掛かりな真空設備が必要で大電力も必要です。もちろんそれらにはコストもかかります。
一方、塗るというのは、まずは簡単だということ。またスパッタや蒸着の場合は、一度全面ベタに金属をつけて、基板のパターンだけを残してあとはエッチングする(溶かし取る)ことになるので、どうしても無駄が多くなります。しかし、プリンテッドエレクトロニクスで金属インクを塗る場合は、必要なところにだけ印刷する方法となるのでエッチングのような無駄はありません。
さらにコストも、蒸着の装置だったら数億円から10億円コースになってしまいますが、印刷なら導入に1億円もかからない。インクジェットのような方法を用いれば印刷用の版を使用しないオンデマンドな製造も可能になりますから、コストイメージがまったく違うんです。
山岡 工程も非常に短くなりますし、無駄がないですからSDGs的観点でも推奨されますよね。

銅粉は高い導電率でありながら安価である

山岡 そもそも金属インクというものが生まれたのはいつ頃なんでしょうか。
三成 2000年になる前から存在はしていたと思います。これまであまり広まらなかったのは、そもそも回路を印刷しようという発想があまりなかったこともあると思いますが、もう一つはやはり金属インクの性能の問題だったのだろうと思います。導電性が良くなかったんです。
山岡 当社では今まさに、比較的低温で粉同士が焼結して導電性を持つような銅粉を開発しています。そうした用途にはもともと昔から銀粉が使われていたんですが、銀粉は値段が高いですし、イオンマイグレーション(多湿環境下の電圧印加により、配線電極中の金属がイオン化し、電極間に析出して短絡が生じる現象のこと)が起こりやすいという問題点がありました。
一方、銅粉は銀と同じぐらいの高い導電率でありながら安価でもあります。そのため銀粉の代わりに銅粉を使おうという動きは何年も前からありました。しかし銅粉は銀粉に比べて酸化しやすく、取り扱いが難しいのが現状で、その課題をどう解決するかの研究と開発を現在進めているところです。
三成 それに加えて銅が良いところは、「はんだ(半田)」がつくところです。銀の場合、銀が半田の中に溶け込んでしまう特性があり接合ができません。ですので、銀で回路を形成するとなると銀と半田を接合するための研究がもう一つ必要になります。
山岡 銅粉は、銀固有の問題点を根本解決できるようなものとなり得ると私たちは思っています。今後、銀粉から銅粉への置き換えが進むような素材の開発を進めていきたいと思います。
三成 我々も山岡さんと同じように考えて銅を研究しているのですが、プリンテッドエレクトロニクス向けのインクというのはナノ粒子のインクで、銅のナノ粒子は非常に酸化しやすい性質を持っています。合成して置いておくと1時間ほどで酸化して、酸化銅粒子のインクになってしまう。そこで私の研究室では銅錯体インクを用いて、室温では銅が錯イオンとして安定的に存在し、熱をかけると初めて金属銅が析出するインクを研究しています。このインクは非常に安定で、このインクを用いた焼成膜は、焼成時の酸化にさえ気を付ければ高い導電性を出せるようになってきました。少しずつ課題は解決できてきていると思います。

プリンテッドエレクトロニクスはIoTの広がりに欠かせない技術

三成 山岡さんはプリンテッドエレクトロニクスの将来性をどのように捉えていますか?
山岡 IoTの分野を中心に間違いなく必要になってくる技術だと思っています。その可能性を広めるためにも、まずは我々が素材の力を高める努力をする必要があると考えています。
三成 IoTが普及するということは、今までエレクトロニクスがなかったところにエレクトロニクスが入るということです。そうなると当然、安く大量に作る技術が必要になります。その点でプリンテッドエレクトロニクスはIoTにも非常に向いていることは間違いないでしょう。さまざまなデバイスが壁に埋め込まれたり、いたるところにインターフェースができたりするような時代には、今までのプロセスと違う印刷デバイスは必須となりますので、その時にこそ求められる技術がプリンテッドエレクトロニクスなのだと思います。
そのためにも、金属インクの製造に適した銅粉の存在は欠かせませんので、山岡さんにはぜひその研究を進めていただきたいです。
山岡 当社も、粉を作っているメーカーとして、導電性を担保する粉の特性を多くの方々にご評価いただき、どこを改良していけばいいのかというフィードバックをお客様や研究機関からいただきながら、改良を重ねていきたいと思っています。我々は粉体の開発には精通していますが、性能テストのノウハウやアプリケーション化においてはまだまだ経験が少ないので、特にプロセスを開発されている三成先生には、どうやったらより使いやすくなるかをぜひ継続して教えていただけたらうれしいです。

ベンチャーを立ち上げたことで変わった研究への意識

山岡 三成先生はNIMSでの研究以外に会社も立ち上げていらっしゃるんですよね?
三成 はい。基礎研究はもちろん非常に重要な研究活動ですが、ニーズを理解しておかなければどういう方向に向かって研究をするのが本当に正しいのかを把握できません。会社を作って良かった点は、いろいろな人の話が聞け、研究や開発に対するさまざまな要望やリクエストが入ってくるので、自分達の研究の方向性を明確にできるようになった点です。会社としてはその方向に向けて研究しないと売れるものになりませんし、実用化にはビジネスモデルも必要になります。会社を始めたことで、研究室にいるだけではあまり考えないそうしたことまで自然に考えるようになりました。私はもともと、どちらかといえば実用を前提とした研究を目指してきましたので、会社の立ち上げによって、さらに研究が進むべき方向に行動を合わせることができています。

山岡 当社もまったく同じです。ニーズが把握できずに開発するのと把握して開発するのでは、過程も結果も変わってきますよね。
三成 それと、普段私はプロセスの研究をしているわけですが、材料というものは作ればすぐに売れますけど、プロセスは売りにくいんですよね。ならば会社で印刷の装置やインクの材料まで作って販売しようと考え、事業を進めています。
山岡 企業としても、研究者の方がベンチャーもやっていらっしゃるというのは解り合える部分がとても多いように感じます。研究面だけでなくビジネスのこともわかってくださっているならば、より突っ込んだ意見の交換をさせていただけるかも知れないので。
三成 私も会社をやるようになってから、いろいろな企業のニーズに合わせることを覚えました。もし「うちの銅粉を使って○○を開発してほしい」というニーズがあるとなれば、そこに合わせた研究ができるようになった。以前は自分がしたいと思った研究だけをしようとしていたので、企業のニーズとはマッチしていなかった部分も少なからずあったと思いますが、会社を始めたことで広く開発の先にあるものを見据えられるようになったことが、最も大きく変わった部分だと思います。
山岡 材料メーカーとして三成先生の事業に何かしら協力させていただき、プリンテッドエレクトロニクスの実現や、そこからつながるSDGs達成への貢献を果たしていければと思っています。これからもどうぞよろしくお願いします。

ご登壇頂いた 物質・材料研究機構(NIMS)三成剛生先生が、論文を発表されました。
>本論文に関するプレスリリースはこちら

紹介動画(YouTube)

金属インクをパターン印刷した電極の焼成方法である「フラッシュランプ焼成」と「レーザ焼成」を紹介します。


※2021年12月取材
※取材は事前の検温、手指の消毒、換気の実施やソーシャルディスタンスを保つなど感染症対策を実施。撮影時のみマスクを外しました。

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