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X-TALK Vol.3 CWO®の可能性とこれからの研究開発について

近年、CPUの演算能力向上やネットワークの高速化といったハードウェア技術に加え、データ処理・解析技術などのソフトウェア技術の格段の進歩に伴って、研究開発そのものにもイノベーションの波が押し寄せています。
今回のX-TALKでは、特異な近赤外線吸収特性を有する新材料 “CWO®” の発明者である足立、自然科学分野の最前線で革新的な理論構築に取り組む町田、計算科学分野において膨大な物質データの中から機能発現に最適な組み合わせを探索する吉尾という、住友金属鉱山を代表する博士3人が、当社材料開発の将来について語り合いました。

CWO®の可能性とこれからの研究開発について

対談者プロフィール

CWO®の発見は偶然の産物だった

足立さんがCWO®の開発に携わるに至った経緯を教えてください。

足立 最初のきっかけは、テレビのブラウン管から出る電磁波をシールドする透明体の材料を開発したことです。透明でありつつ導電性を上げるためにさまざまな導電材料を探す過程で、透明な物質にこだわらなくても、真っ黒い粉だったとしても非常に小さくすれば理論上は透明になるだろうと考え、その結果として二酸化ルテニウムという化合物に辿り着きました。その二酸化ルテニウムを用いた開発の最中で近赤外線、いわゆる熱線を吸収する特性を見つけたのが気づきの始まりです。

つまり、CWO®はもともと見つけるはずの発見ではなかったということです。その時点ではまだ弱い吸収だったのですが、これを強くしてやれば、透明でかつ熱線を吸収するような材料ができるのではないかと考え、さまざまな黒色の化合物を検証しました。そこで透明グリーン系のLaB6という化合物に辿り着き、また最終的な成果として透明ブルー系のCWO®が生まれたという流れです。2002年頃のことだと思います。

 

この開発の経緯は町田さんと吉尾さんもお聞きになられたことはありましたか?

町田 研究報告書という形で経緯がまとまっていたので読んで知ってはいました。ただ、研究報告書はLaB6から話が始まっていたので、二酸化ルテニウムから始まったという話は足立さんと一緒に研究をするようになってから教えてもらった話です。
吉尾 私も同じです。入社した時点ですでにCWO®は存在していましたが、過去の経緯としてそういう流れがあったことを聞いています。
町田 入社当初から「CWO®の次の材料を探さなければいけない」と言われていたんです。それからすでに10年、次の材料を探し続けているわけですが、研究すればするほど「こんないい材料は他にないぞ」ということがじわじわとわかってくる。CWO®はそんな存在で、本当に特異な材料だと思っています。
吉尾 私は研究開発の支援をする立場ですので2人とは視点は異なりますが、私から見ても非常に優れた材料で、これを超えるものを探すのはかなり難しいだろうと、非常に珍しい材料を見つけたなと、そんなイメージを持っています。
足立 私一人の力ではなく、当時の研究者がみんなで知恵を振り絞って見つけたものですが、その発見は偶然の産物でした。しかし、材料開発というのはそんなものなのだろうと思っています。

材料の可能性を感じ研究者自ら拡販に奔走

CWO®を広めていくために足立さんご自身もかなり営業に動かれたそうですね。

足立 そうですね。研究者自ら動くということは当時も今もほとんどないと思いますが、ここまで透明性が高く熱の吸収力が強い材料というのは見たことがなかったので、これはさまざまな用途に使えるかもしれないと思い、いろいろなところに話をしに行かせてもらいました。電話ボックスの中が非常に暑いということで、N社の方が非常に興味を持ってくださって、一時使っていただいたこともあります。

また、日本では禁止されていますが、海外ではアクリルやポリカーボネートが建築材料としてガラス代わりに使われていますので、そこに応用できないかと考えて海外に材料を売り込みに行ったりもしました。当時の研究所や本社のマネジメントは、私がまだ売れるかどうかもわからないものの件でアメリカに行ったりオーストラリアに行ったりするのをよく許してくれたなと思いますが、そこは住友の伝統的なおおらかさかもしれませんね。あの時期に行動できたことが今のCWO®の広まりにつながっていることは間違いないと思います。

町田 私自身、自分で開発した材料をお客様に直接売り込みにいくという経験はまだできていませんし、まわりを見てもなかなかありません。特に研究者が自ら海外へ直に売り先を探しに、しかも事業部を通さずに行ってしまうケースは、私個人としては他に聞いたことがありませんでした。それを許してくれた周囲の人達と、それを本当にやってしまった足立さんという存在がスペシャルなんだと思います。

計算科学から図るCWO®の特性のさらなる向上

吉尾さんは開発を支援する立場としてどのように研究側の方々と連携しているのでしょうか?

吉尾 私は計算屋として、CWO®の特性をもっとよくできないか、またはCWO®を超えるようなポテンシャルの材料はないかを計算機上で探し、それを足立さんや町田さんに提案しています。

町田 私のほうではそれを受け取り、実際に作ってみて特性を立証することで連携しています。CWO®に関して言えば、光をより通しつつ近赤外線をより強力に吸収するという研究が一つ。また、顧客用途にあわせた、より長期間での耐久性を実現する研究、さらに、より安く、かつより大量に作るための研究などにも総力で取り組んでいます。

吉尾 私としては、もう少しピュアなCWO®ができたらという思いがイメージとしてはあるんですけどね。

町田 吉尾さんが言う通り、ピュアな材料ならもっといい特性が出る可能性もあります。一方で私としては、CWO®にある結晶構造の欠陥など、いわば「きれいではない」部分があるからこそ優れた特性が出ているという仮説を持っていて、まだ結論が出せていない状態なんです。これは我々の間でも日々議論を進めているところですね。

こうして次の世代の仲間たちがCWO®を起点に研究を重ねていることは、足立さんにとってはうれしいことですよね。

足立 そうですね。CWO®の開発に携わったものとしてはもちろんうれしいですし、機能を極めるというのは開発ターゲットとしてもちろんありですが、一方ではそれを乗り越えるような新しい材料の開発にも目を向けてほしいとも思いますね。

研究者にとって「発見する」とは?

足立さんにとって「発見する」とはどういうことでしょうか?

足立 研究に巨額の投資がなされ、そこに人材も大量に投入される企業であれば、おそらくちゃんと立派な材料が開発されるんだと思います。しかし当社のような規模の会社が新しい発見をしようと思うと、人材や金にものを言わせるわけにはいかない。ではどうやって新しいものを発見するのか。そこに必要なのは、先入観を捨てる意識です。先入観があると、せっかく目の前に現れたチャンスをつい見逃してしまうんです。
「発見する」ということは今までなかったものを捕まえることですから、常識的に「これはないだろう」と否定してしまっては何も出てきません。当たり前と思っているような先入観を捨てるということが「発見する」ことにつながるのではないかと思います。

一(いち)研究者として、今まで実験データを吟味しその中からいろいろな材料を見つけようとやってきたわけですが、いいものの多くは研究の本来の目的からズレたところで見つかります。CWO®もその一つです。研究を重ねていると何げないデータの中に通常では考えられないような数値が出ることがあって、そこには別の原理が含まれている可能性が高い。その別の原理に気づき、練り上げていけば、きっと新しいものができる。そういう気づきを大切にすることが「発見する」ということにつながると思いますし、それが当社のような規模の会社のやり方の一つなのだろうと思います。

数値の違いを単なるエラーとして済ませるのではなく、そこにある新たな何かを突き詰めるということですね。

足立 そうですね。ところが往々にしてそこは気づかれることなく研究が進んでしまう。そもそもの目標や目的とは違うものであるためにデータが捨てられてしまう。それがほとんどだろうと思いますが、その違いを面白がり、興味を持って突き詰めて欲しいですし、会社もそれを許容する雰囲気であってほしいと思います。

計算は材料研究の強力なツール

町田さんと吉尾さんは「発見する」ということをどのように捉えていますか?

町田 大きくいえば、2つの切り口があると思っています。まず、私の世代は目標をしっかり立て、それに対する真っ当な手段を選択し、それを計画通りに遂行しましょうという教科書的な研究開発の教育を受けた世代であり、それを真っ当にやることがまず一つの発見の手段となります。
ただし、それではいわゆるイノベーションは生まれにくいのでは、という意識もだんだんと根付いてきました。たとえばCWO®のインクを作るとき、水では分散できず有機溶媒という油的なものでなければ分散できないということをいろいろな人から教えられ、私の頭にはその概念が刷り込まれていました。「水では分散できないからやめておけ」と。ところが、研究に協力してくれた人が何気なく水でやってみたら分散できて、この発見が複数の開発案件に繋がりました。思い込みって本当に怖いと思いましたし、実験事実を何より大切にしながらも、当初の想定の外側で光るものを見つけるというのが2つ目の手段になるのだろうと思います。

吉尾 計算屋の立場としては、計算が貢献できる課題や切り口を見つけることが一番大きな「発見」です。必ずしも意味がある計算ばかりを研究側に提供できているわけではありませんが、自分で気づき課題を発見する力を身につける必要があると思っています。

町田 吉尾さんが発見をしなければ私のところでも発見が生まれない可能性がありますから、計算との連携は絶対に必要だと思っています。特に新しい材料を生み出そうとする場合、世の中に存在する無数の候補の中から有効な物質を探さなければならず、当然それを片っ端から実験することはできません。しかし、計算上で候補の数を10,000から100に絞ってくれたとしたら、こちらとしては発見の可能性が大きく高まります。そういう意味で、計算は発見のためのとても強力なツールなんです。実際、吉尾さんにはかなり連携をしてもらっていますし、我々にとっては本当になくてはならない存在ですね。

足立 うまい計算ができるベースにあるのは原理の理解です。メカニズムがわかっていれば素晴らしい計算ができます。ただ、メカニズムというのは計算ではなかなか出てこないんです。ですから、まずは実験と人間の頭でそのメカニズムを解明し、解明されたそのメカニズムのもとにアプライする時に計算科学というものはものすごい力を発揮する。現状ではそういう順序なのだろうと思うのですが、吉尾さんどうですか?

吉尾 原理がわからないと計算をしても仕方がないので、確かにおっしゃる通りだと思います。一方、それとは別の意味での計算の役割として、原理を理解するためのサポートもあるかと思っています。

材料と向き合い見つめ続けることが新しい発見には不可欠

CWO®が未来に向けてどういった使い方がなされるか、またそのためにどんな取り組みをすべきか、それぞれに思い描く理想像や活用のイメージがあれば教えてください。

足立 我々は無機材料を手掛けるメーカーですが、たとえば有機材料を手掛ける会社と当社が原理や知見をシェアして新しいハイブリッド材料を作っていくような取り組みは大いに意味があると思っています。
町田 私も足立さんと同じ意見です。新しいことって、一人で専門分野を突き詰めることで見つかることもあれば、分野が違う人とやりとりをする中で生まれることもあると思います。ですので、信頼関係を持った相手とそれぞれの知識をさらけ出し本気で議論するような機会をもっと持つことができるといいなと思っています。
吉尾 CWO®の活用法という点で言えば、もう少し日光を強く反射するようなアプリケーションへの活用も考えられますし、WO3骨格の空隙を利用したイオン伝導体としてのアプリケーションへの活用も可能性としてあるかなと思っています。

足立さんは町田さんや吉尾さんに、また会社にどんなことを期待していますか?

足立 材料メーカーですから材料そのものに集中し、革新的な材料が生み出されることを期待しています。それを実現するためには、ひたすら材料の機能やその発現原理を見つめ続けること。それが大前提です。多くのデータの中から宝石の原石に気付くことや、先入観にとらわれない推理をするには、個々人が本当に集中して打ち込まないとなかなか難しいと思います。私もそういう研究者に助力できればと思います。

町田さん、吉尾さんの今後の目標や夢を教えてください。

町田 会社のオフィシャルなミッションはこれからも変わらず新しい透明近赤外吸収材料を開発することですが、私としてはそこから一歩先に踏み出さないといけないとずっと思っています。特に私が興味を持っているのは材料と光、電子と光の相互作用という切り口で光の吸収以外に何かしら新しい応用特性が見えてくるのではないかという何か予感めいたものがあるので、そこを突き詰めようと考えています。ミッションとしての研究に打ち込みながら、その周囲に見えてくるものにも気づけるような視野で研究をしていきたいと思っています。
吉尾 実験よりも先に計算で良い材料を見出して、それがあとから実験で実証されるような事例をつくることが、私にとっても会社にとっても一つのゴールだと思っています。

 

取材によせて

これからの材料開発 ~実験科学と計算科学の連携~
住友金属鉱山株式会社 機能性材料事業本部 粉体材料事業部 企画開発部長 東福淳司

近年では、機械学習※・人工知能(AI)の発展によって、材料開発のプロセス自体が大きく変わりつつあります。具体的には、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)※と呼ばれる研究プロセス(手法)であり、ビッグデータの活用などの情報科学を通じて新材料や新素材を効率的に探索する取り組みがあげられます。当社R&Dでも、原子配列や電子配置などの物性特性をコンピュータ上で高精度にモデル化した材料データベースを活用し、併せて過去の実験データやシミュレーションデータを学習させた探索アルゴリズムを使うことで材料開発の効率化を進めています。未だ道半ばではありますが、CWO®発明当時と比べると隔世の感があります。

これまでの材料開発や素材探索は、研究者の知識や勘、経験に裏打ちされた「実験科学」により見出された材料特性について仮説・検証(実験)を繰り返す手法が一般的でした。このため、新材料の発見から実用化に至るまで非常に長い時間と費用を要し、実際、CWO®の開発は着想から本格的な事業化までおよそ10年という期間を必要としました。若い研究者からすると、非常に不効率だと思われるかもしれませんが、当時はそれがあたりまえのプロセスでした。MIの活用は、材料開発にかかるコストと時間を大幅に圧縮できる “研究開発のイノベーション” と言えます。

しかし、短時間に詳細な解析結果が得られるようになった現在でも、そこから意味のある情報を抽出する方法論は未だ過渡期にあります。既述の通り、AIやMIを形作るのは、材料特性のモデル化や実際のデータ群であり、それらの整備が必須です。吉尾は大量のデータをマネジメントする一方で、より効率的な材料探索を可能とする統合的枠組みの構築を目指し、一方の町田は実験データを説明する数学モデルを構築してメカニズムを立証するとともに、その結果をフィードバックしてより確度の高い計算に役立てようとしています。

これからの研究開発は、実験科学(帰納的アプローチ)と計算科学(演繹的アプローチ)が連動したデータの蓄積・共有・循環が必要であり、それぞれの領域の専門性の深化に伴う異分野研究者間のコミュニケーションギャップをどう乗り越えていくかが最も重要となるでしょう。

物質科学者としての三人の創造と挑戦はこれからも続きます。彼らの連携が、世間をあっと驚かせる新材料を発明することを期待して止みません。

注1)機械学習:コンピュータによって、特定の課題に対する効率的な予測・分類を行うためのアルゴリズムや統計モデルを構築する手法の総称。
注2)マテリアルズ・インフォマティクス(MI):材料(マテリアル)に関する実験やシミュレーション結果のデータベースを、情報科学(インフォマティクス)の手法を用いて解析することで、効率的で高速な新材料探索や試作を行う取り組みの総称。

 

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