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中性色の新規近赤外線遮蔽材料(CPT)

近赤外線吸収量を落とさずに、青みのレベルをコントロール

住友金属鉱山は、Csドープポリタングステン(CPT)材料を用いて、中性色の新規近赤外線遮蔽材料を開発しました。当社ではこれまで、近赤外線遮蔽材料として独自のLaB6(六ホウ化ランタン)やCWO®(セシウムドープ酸化タングステン)のナノ微粒子関連材料を取り扱ってきました。
近赤外線遮蔽材料は、自動車の各種ガラス、一般建築用合わせガラス、各種プラスチックガラスなどに使用されています。しかしLaB6には緑色の、CWO®には青色の弱いティントが存在し、ITO(錫ドープ酸化インジウム)のように無色で、かつITOよりも近赤外線吸収効果が強い材料が求められていました。

六方晶の結晶構造を持つCWO®に対して、新たに斜方晶または三方晶の結晶構造を持つCPT材料を開発したことにより、近赤外線吸収量を落とさずに、青みのレベルがCWO®とITOの間でコントロールできる技術を獲得しました。

この開発の一部は、英国王立化学会の科学誌RSC Advancesに論文として掲載されました。また、CPT材料の主要部は今後、別途論文発表される予定です。

住友金属鉱山では、地球温暖化の進行に伴い、今後ますます重要となる環境対策の一助として、太陽光に含まれる熱い光(近赤外線、NIR光)をカットする近赤外線遮蔽フィルターの開発を行なってきました。

これまでに、視覚的な明るさとNIR光の除去効率の高さがトップクラスの特性を持つCWO®(セシウムドープ酸化タングステン)のナノ微粒子材料を独自開発しました。CWO®は主に、自動車の窓、住宅やビルの窓に使用されています。

CWO®は、高い可視光透明性を持つ近赤外線遮蔽フィルターですが、僅かに青みを持つのが特徴です。この青みを完全になくしたいという要求が以前から出されていました。この要求にこたえる材料が、今回発表するCPT(Csドープポリタングステン)材料です。

どれだけ色を無色透明にできるのか、それを示す簡単な図がFig. 1の微粒子分散膜の透過プロファイルです。

Fig. 1

この図は材料の色を公平に比較するために、可視光透過率(VLT)が一定(72.3%)の条件で比較しています。ITOは無色透明な材料として知られています。可視光の波長における透過率が、人間の目の視感度曲線に対して左右偏らず均等に透過させるので、無色に見えます。一方CWO®は、近赤外線のうちで可視光に近いギリギリまで遮蔽するため、相対的に赤の透過率が低く青の透過率が高いプロファイルになっています。その為にCWO®フィルターは、透明ではあっても青っぽい膜となります。

CPT-1~CPT-5で示す開発品CPTは、CWO®とITOの中間のプロファイルになっています。つまり、赤い矢印で示すようにCWO®に比べて青波長の透過率は大きく落ち込んでおり、逆に赤波長の透過率は大きく増加しています。そのためCPTフィルターの色は、中性色に見えることになります。また中性色の度合いは、青っぽいCWO®から無色のITOに至る中間の色調を自由に選ぶことができます。

一方、CPTでは近赤外波長において透過率が大きく落ちており、NIR光の強い吸収があることが分かります。しかも、中性色の度合いを変えてもNIR吸収の中心波長がずれていくだけで、NIR光の吸収プロファイルは変わりません(但し波長が変わると熱効果は変化します)。これはCWO®を薄めて使うのとは根本的に異なる方法です。CPT-1~CPT-5は、それぞれ別の微細構造と電子構造を持った材料であることが、色変化の基本となっています。

なぜこのような効果が得られるのか

色を理解するためには、材料の吸収係数を知る必要があります。Fig. 2はCWO®の吸収係数の実験値(点線)と計算値を示したものです。

Fig.2

 

CWO®は380nmから780nmまでの可視波長で吸収係数が大変小さくなっています。しかし両端の青波長と赤波長では、吸収が強くなり、これをもたらす原理は異なっています。青波長の吸収は、材料のバンド端遷移吸収で起こります。バンド端遷移吸収は、材料の価電子帯の電子が伝導帯の空位に遷移して起こります。従ってバンドギャップが狭くなれば遷移させるエネルギーは小さくなり、青波長の吸収が大きくなります。私たちはCWO®よりもバンドギャップが少しだけ小さいCPT材料を用いて、これを実現しました。

一方赤波長の吸収は、ポーラロン遷移吸収と局在表面プラズモン共鳴(LSPR)によって起こります。CWO®は六方晶であるため、c軸に平行方向と垂直方向ではLSPRの共鳴の波長や能率が異なります。ポーラロン吸収とプラズモン吸収の割合や大きさは、材料自体の構造によって変化することはもちろん、微粒子のサイズや分布、分散媒体の屈折率などによっても変化するため、両者とも重要です。両者の吸収波長を長い方へシフトさせれば、赤波長の吸収は減少するので、色は中性方向へシフトします。LSPR波長は共鳴をつかさどる電子の量と有効質量に依存します。一方ポーラロン遷移は、Wイオンに束縛された電子の励起で起こるため、遷移波長はポーラロン濃度、即ち酸素空孔濃度によって制御されます。このようにして主に共鳴電子の量やポーラロン濃度をCWO®よりも微減させることにより、NIR吸収波長を長波長へシフトさせ、赤波長の透過率を上げることができました。

 

付記

材料革新は少しずつ為されていきます。ここに示したCPT材料は、膜のブルー色調は大きく改善されますが、完全無色になるわけではありません。
完全無色にするには、可視光で角型の透過率プロファイルが理想ですが、微粒子分散フィルターでは、電子の緩和現象によりこの実現は原理的に制約されます。CWO®やCPT材料では、実際に実現可能な微粒子分散フィルターとして得られる透過性と遮蔽性の更なるマージンは少ないと思われます。
一般材料も含めて、微粒子分散フィルターとして得られる透明性とNIR遮蔽性の限界には、かなり近い位置に来ていますが、住友金属鉱山ではこれをさらに追及していきます。

1. Satoshi Yoshio, Masao Wakabayashi and Kenji Adachi, “Cesium polytungstates with blue-tint-tunable near-infrared absorption”, RSC Advances, Vol.10, pp. 10491-10501 (2020)
2. K. Machida, M. Okada, K. Adachi, “Excitations of free and localized electrons at nearby energies in reduced cesium tungsten bronze nanocrystals”, Journal of Applied Physics, Vol. 125, p. 103103 (2019)

 

 

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