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近赤外線吸収材料とは?吸収の原理や可視光線の透過について

近赤外線吸収材料は、高い可視光透過性と近赤外光に対する強力な選択吸収性を併せ持つ材料です。例えば窓材に適用することで、十分な明るさを保ちながら太陽光に含まれる近赤外線のエネルギーを効率良くカットし、室内の温度上昇を大幅に抑制する効果が得られます。

当社の近赤外線吸収材料は、住友金属鉱山が独自で開発した近赤外線吸収微粒子であるLaB6(六ホウ化ランタン)、CWO®︎※(セシウムドープ酸化タングステン)は、従来材料であるITO(スズ添加酸化インジウム)、ATO(アンチモン添加酸化スズ)と比較して、太陽光線中に含まれるより多くの近赤外光を選択的に吸収します。

※ CWO®︎は住友金属鉱山の登録商標です。三酸化タングステンにセシウムを添加することで得られる導電性微粒子であり、2004年に当社が独自開発した新規の熱線吸収微粒子です。CWO®︎を用いた素材テクノロジーブランドがSOLAMENT®︎です。

太陽光線の波長の種類と熱線遮蔽微粒子の光学特性

太陽光は、紫外線(UVC:~290 nm、UVB:290~320 nm、UVA:320~380 nm)、可視光線(380~780 nm)、近赤外線(780~2500 nm)、中赤外線(2500~4000 nm)から成り、そのエネルギー比率は紫外線が7 %、可視光線が47 %、近赤外線と中赤外線が合わせて46 %です。特に近赤外線は、短波長ほど輻射強度が強く、皮膚内に浸透して発熱効果が高いので「熱線」とも呼ばれます。

 

窓ガラスの日射遮蔽は、熱線吸収ガラスや熱線反射ガラスを用いるのが一般的です。熱線吸収ガラスは、ガラスの中に混ぜ込まれた鉄やニッケル、コバルト、クロム等の金属成分により近赤外線光を吸収するものであり、安価に製造できる反面、当該金属成分特有の、安価に製造できる反面、材料特有の色調を呈するため、可視光透過性が十分確保できません。熱線反射ガラスは、ガラス表面に金属や金属酸化物を物理的に形成することで日射エネルギーを反射しようとするものですが、一方で、反射波長が可視光にまで及ぶため、外観がギラつく、電波障害を生じる等の弊害が生じます。可視光透過性が高く、電波障害のない高性能の日射遮蔽ITOやATOのような透明導電物をナノ微粒子にして分散すると、図1に示すような透過プロファイルが得られ、電波透過性を持った近赤外線選択吸収膜が得られます。
しかし、太陽光のスペクトルを参照すると、800 – 1200 nm付近には大きなエネルギー強度があり、ITOやATOの微粒子分散膜ではこの部分を十分に除去し切れません。LaB6やCWO®︎では上記波長域の光吸収までカバーすることができ、より高効率で熱線を除去できます。

図1 太陽光スペクトルとIRカット微粒子の透過プロファイルの比較

太陽光の赤外線の遮蔽効果は、日射熱取得率(ガラスを通して流入する正味の太陽光エネルギーの割合)、或いはこれを3 mm厚のクリアガラスで規格化した日射遮蔽係数で定量的に表現されます。実用上はできるだけ明るいフィルムを用いて日射遮蔽係数をできるだけ小さくすることが好ましく、さまざまの材料に関してこの関係をプロットした結果が図2です。


図2 各種日射遮蔽材料の可視光透過率に対する日射遮蔽係数の比較
(一部2007年環境省実証試験のデータを使用)

図2中右下に向かうほど特性が高いことを示しています。この結果から、ATO、LaB6、ITOの微粒子分散膜は、熱線吸収ガラスや熱線反射ガラスよりも良好な特性を持つことが分かります。CWO®の微粒子分散膜はこれらよりも更に高く、ITO単層スパッタガラスや、M社の多層熱線反射フィルムとほぼ同等の特性を持ちます。熱線の吸収が主機能のコーティング膜であっても反射成分の強い乾式のコーティング膜と同等の日射遮蔽特性を低コストの簡易プロセスで持つことは工業生産においては重要なポイントとなります。

更に、LaB6やCWO®は単位重量あたりの吸収係数が大きいため、使用する材料の量が非常に少なくて済みます。同じ日射遮蔽係数を得るのに必要な微粒子の量(透明体の単位投影面積あたり)を比較したものが図3です。LaB6やCWO®は、ITOやATOに比較してはるかに少ない量で同等の日射遮蔽効果を持つことが分かります。LaB6の場合では、可視光透過率70%程度の膜の形成に必要な量は、実に僅か0.02 g/m2程度であり、ITOに比べて100分の1の量でも有用な日射遮蔽効果が得られます。このように希薄な分散密度で効果を奏することはコスト的に大きなアドバンテージとなり得ます。

住友金属鉱山の近赤外線吸収材料について詳細を見る

 

少ない添加量で高い日射遮蔽率を実現する【LaB6

LaB6はTEMの電子源などに用いられている黒色の導電性材料です。希土類元素の六ホウ化物はいずれも近赤外光に吸収を持ちますが、中でもランタンの六ホウ化物であるLaB6が最も優れた熱線遮蔽能を有することを1997年に当社は発見し、特許を取得しました6-9)。LaB6はATOやITOと異なりやや緑色の色調を有しますが透明性が高く、日射熱取得率に対する使用量が非常に少ないのが特徴です(図3)。
これはLaB6の非常に高いモル吸収係数に由来します。LaB6が持つ大きな近赤外線吸収原理は導電性ナノ微粒子が示す局在表面プラズモン共鳴が起源であり、その吸収波長は粒子の形状に依存しています5)


図3 日射遮蔽係数に対する赤外線吸収微粒子の使用量


図4 LaB6分散液の吸収スペクトルの平均粒子径依存性

図4に平均粒径の異なる種々のLaB6分散液の吸収プロファイルの測定結果を示します。平均粒径が1.3μmと大きい場合は1000 nm付近の近赤外線吸収はほとんど生じませんが、326 nmと小さい場合には幾分かの吸収が出現し、さらに微粒化が進むにつれて、その吸収が大きくなっていくことが分かります。つまり、この吸収は粒子の粒径がナノサイズになって初めて現れる現象であり、粒径を小さくすればより狭い波長範囲で強い吸収を持つようになります。ただし、実際にはLaB6の表面酸化のため粒径90 nm近傍の時に最大の吸収を持つと言えます。無機化合物であるLaB6ナノ微粒子は、一般的な有機顔料に比べて優れた耐熱・耐光性を有していますが、極度の高温高湿環境下における長時間暴露ではやや退色(吸収力の低下)する場合があります。この対策例としては、シリカ成分による表面被覆処理を施し耐湿熱性を向上させたLaB6微粒子が実用化されています3)

透明性が高く、近赤外線だけを選択して吸収する【CWO®】

CWO®は三酸化タングステン(WO3)にセシウムを添加することで得られる導電性微粒子であり、2004年に当社が独自開発した新規の熱線吸収材料です2,13-14)。WO3は単斜晶構造を有する絶縁体ですが、酸素還元やドーピングにより導電体となることが知られています10-11)。還元により酸素を欠損させてWO3-xとすると、見掛け上欠損酸素から自由電子が生じて、導電体となります。WO3-xは、酸素欠損を増やしていくとWO6八面体の稜を所々で共有させたMagneli相と呼ばれる化合物系列となり、一部は高い電子導電性を示し顕著な近赤外線吸収特性を示します。WO3に導電性を持たせるもう一つの方法は第3元素の添加です。単斜晶WO3はペロブスカイト構造MWO3のMサイトに相当する位置が規則的な空隙となっており、これらの空隙の中心にNa等の第3元素をさまざまの割合で入れることができます。添加元素のイオン半径が大きくなるに従って、立方晶(Na等)、正方晶(Ba等)、六方晶(K, Tl, Rb, Cs等) へと結晶対象性は変化していきます。一般にWO3に添加された1価の第3元素Mは、結晶内でM → M+ + e- と解離しM+はWO6八面体が作る空隙に入る一方、e- はW6+の周辺に配置されてW5+ を形成し、この電子のホッピング伝導によってWO3の導電性が向上すると共に、電子のポラロン吸収によって近赤外線吸収特性を生ずるとされています。アルカリ元素でもイオン半径の大きいK、Tl、Rb、Csを添加すると六方晶タングステンブロンズ(以後HTBと略す)の構造をとります。HTBの結晶構造を図5に示します。これはWO6八面体を稜で共有させた構造ですが、底面切断面では六角形や三角形として見えるトンネル状の空隙の多い構造です。規則的に生ずる六角形トンネルがすべてCsなどの第3元素で埋められる時、MとWの原子比は0.33となります。結晶構造がHTBである場合は図6に示すように可視光透過率が大きくなり優れた熱線吸収特性が発現します2,12)

住友金属鉱山は、陽イオンを添加したHTB微粒子の製造プロセスについて検討したところ、原料の選択、製造方法、組成比などの最適化によって工業的に有利な製造方法を確立することができました。検討したHTBのうち光学特性、耐候性、コスト面からCs添加系が工業的に最も適合する組み合わせであることも併せて見出しました。この組み合わせは従来から知られているITOの特性を超える微粒子分散タイプの新規熱線吸収材料に位置づけられます。


図5 六方晶タングステンブロンズCs0.33WO3の結晶構造


図6 HTB微粒子分散液の透過プロファイル

引用文献

1. H. Takeda, H. Kuno and K. Adachi: J. Am. Ceram. Soc., 91, 2897 (2008)
2. H. Takeda and K. Adachi: J. Am. Ceram. Soc., 90, 4059 (2007)
3. 東福淳司、足立健治 : 粉体技術, Vol.2, No.11, p.37 (2011)
4. T. Chonan, A. Tofuku, K. Fujita and K. Adachi: Proc. the Third Int. Conf. on Processing Materials for Properties (PMP III), TMS, 903-908 (2008)
5. K. Adachi, M. Miratsu and T. Asahi: “Absorption and scattering of near-infra-red light by dispersed lanthanum hexaboride nanoparticles for solar control filters,” J. Mater. Res., 25, pp. 510-521(2010).
6. H. Kuno, H. Takeda, and K. Adachi, “Coating solution for forming a selectively transmitting film, a selectively transmitting film and a selectively transmitting multilayer film”, US Patent No. 6060154, 2002.
7. H. Kuno, H. Takeda, and K. Adachi, “Film for cutting off heat rays and a coating liquid for forming the same”, US Patent No. 6277187, 6221945, 2001.
8. K. Adachi, H. Takeda, and H. Kuno, in Proceedings of the 39th Meeting of the 69th Committee of Japan Society for the Promotion of Science, 2002 (Nagoya, 2002) p. 201.
9. H. Takeda, H. Kuno, and K. Adachi, J. Am. Ceram. Soc. 91, 2897 (2008).
10. K. Bange, Solar Energy Mater. & Solar Cells 58, 1 (1999).
11. C. G. Granqvist, Solar Energy Mater. & Solar Cells 60, 201 (2000)
12. K. Adachi and T. Asahi: J. Mater. Res., 27, 965 (2012).
13. H. Takeda, and K. Adachi, “Infrared shielding material microparticle dispersion infrared shield, process for producing infrared shield material microparticle and infrared shielding material microparticle”, US Patent No. 0178254, 2006.
14. H. Takeda and K. Adachi, “Fine particle dispersion of infrared-shielding material, infrared-shielding body, and production method of fine particles of infrared-shielding material and fine particles of infrared-shielding material”, US Patent No. 8083847, 2011.

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