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現在、フォトニクス分野において「ニオブ酸リチウム単結晶」の活用が広がっています。特にAR(拡張現実)グラスなど次世代光学デバイスにおいてはニオブ酸リチウム単結晶の高屈折率・高透過率という特性が注目されています。
住友金属鉱山株式会社は、独自技術により可視光吸収を極限まで低減したニオブ酸リチウム単結晶(LiNbO3)を開発しました。このコラムでは、ニオブ酸リチウム単結晶の基礎から応用事例について紹介します。
ニオブ酸リチウム(LiNbO3、以下LN) は、高屈折率、高透過率の優れた光学的電気的特性を持つ単結晶機能性材料です。圧電性を用いたSAWフィルタや電気光学効果による光変調器、さらには非線形光学効果を利用したSHG発生素子など多岐にわたる分野で産業利用されています。
また、近年ではLNが高屈折率、透明材料であることからARグラス用の導波路(導光板、waveguide)の材料としても注目されています。
LNは高屈折率・高透過率を持つ機能性材料ですが、従来のLN単結晶には「可視光吸収、特に波長470nm近傍に吸収ピークが存在する」という課題がありました。この吸収ピークが影響して従来のLN単結晶は黄色味を帯び、光学デバイスへ応用する際、透過率の低下や画像品質の制限につながっていました。
●可視光域(波長400~700nm)のLNの透過率スペクトルでは、470nm付近で吸収が増加
●これがARグラス等の導光板用途では、画像の鮮明さや消費電力に悪影響
●不純物を添加しない一般的LN単結晶では、この課題の解決は困難だった
住友金属鉱山では、独自の結晶育成技術により、不純物を添加することなく、結晶育成条件を調整し、470nm近傍の吸収ピークを大幅に低減したLN単結晶を開発しました。住友金属鉱山の低光吸収LNと従来LNの比較について、表1に波長470nmでの吸収係数β、図1に実際の結晶の写真を示します。470nm近傍の吸収が低減し、黄色味が薄くなっていることが分かります。
表1:波長470nmの吸収係数比較
| 従来LN | 当社低吸収LN | |
| 吸収係数β (波長470nm) |
0.014 | 0.0066 (従来品比 約50%低減) |
図1:従来LNと開発した低吸収LNの比較写真

AR(Augmented Reality:拡張現実)グラスは、現実世界にデジタル情報を重ねて表示させるウエアラブルデバイスです。ユーザーが眼鏡のように装着することで、現実と仮想が融合した体験を可能にします。現在、一般消費者向けの販売は限られていますが、2027年から2030年頃にかけて普及が拡大すると見込まれており、将来的にはスマートフォンに代わる次世代デバイスとしての役割が期待されています。
ARグラスでデジタル情報を表示する技術には、様々な方式がありますが、軽量化・高画質化の観点からWaveguide方式(導波路・導光板方式)が有力視されています。
ARグラス用Waveguide用材料に求められる主な品質特性は以下の通りです。
●高屈折率:屈折率が高いほどARグラスに表示できるデジタル画像の視野角が広くなります。
●可視光領域の高透過率:可視光の透過率が高いほどwaveguide内を通る光の損失が減り、デジタル画像を鮮明に表示することができ、かつ消費電力の低減にもつながります。
●低比重:比重が小さいほどARグラスの掛け心地、長時間着用時の疲労低減につながります。
●高平坦性:平坦性が悪いと、デジタル画像の表示の乱れにつながります。
●低表面粗度:デジタル画像はwaveguide内で全反射を繰り返すため、表面が荒れていると光の散乱による損失が増えてデジタル画像の画質低減につながります。
現在、ARグラス用Waveguide用の材料には主に高屈折率ガラスが使用されています。元々、LN単結晶は高屈折率ガラスと比較して高屈折率・低比重という特徴があります。これに加え、住友金属鉱山が開発した低光吸収LN単結晶は可視光透過率が高いため、ARグラス用Waveguide材として、従来の高屈折率ガラスよりも適していると考えられます
表2: 住友金属鉱山ARグラス用低吸収LNの物性表
| 製品名 | 屈折率 | 吸収係数(470nm) | 比重 | ||
| 436nm | 546nm | 656nm | |||
| SMM低吸収LN | 2.36 | 2.32 | 2.30 | 0.0066 | 4.62 |
| (参考)高屈折率ガラス | 1.90~2.05 | 1.90~2.05 | 1.90~2.05 | 0.013~0.030 | 3.5~5.1 |
表2は、ARグラスの品質に影響する主要な物性値について、高屈折率ガラスと住友金属鉱山製LN単結晶の比較を示したものです。屈折率、吸収係数共に高屈折率ガラスに比べ高い水準であることが分かります。
LN単結晶は、ARグラスだけでなく、さまざまな光学デバイスへの応用が期待されています。
たとえば「光変調器」は、光信号の強さや位相(波のタイミング)を制御する装置で、光通信やデータ伝送に不可欠な部品です。また「導波路」は、光を特定の経路に案内するための構造で、光ファイバーや光集積回路などに使われています。
従来、かたまり状(バルク)のLN単結晶は光変調器に広く利用されてきましたが、近年は異なる素材の基板を組み合わせる技術が進展し、シリコン基板上に薄いニオブ酸リチウム膜(TFLN:Thin Film Lithium Niobate)を形成できるようになりました。これにより、ウエハーサイズでの大量生産が可能となり、光変調器の小型化や高性能化が進んでいます。
さらに、TFLN技術を活用した光変調器は、光と電気を組み合わせた「光電融合デバイス」や、次世代通信、量子技術への応用も期待されています。
当社では、LN単結晶の可視光領域での光吸収を抑える技術やノウハウを活かし、光電融合デバイスに使われる赤外領域でも光の損失を低減する取り組みを行っています。ARグラス以外にも、低光吸収LN単結晶の多様な応用について、お気軽にご相談ください。
LN単結晶は、高屈折率と低吸収係数という特性から、ARグラス用Waveguide材料として注目されています。特に、住友金属鉱山が開発したLN単結晶は、可視光の吸収を抑える独自技術により、ARグラス用途にさらに適したものとなっています。また、可視光だけでなく赤外線領域でも光の損失を低減する取り組みも進めています。そのため、住友金属鉱山のLN単結晶は、光変調器や導波路、次世代の光フォトニクスを活用した光電融合デバイスなど、幅広い応用が期待されています。
新規用途のご検討や技術的なご相談がございましたら、ぜひ住友金属鉱山までお気軽にご連絡ください。
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