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磁歪材料とは?発電デバイスでの活用や振動発電×IoTの可能性について

IoTが進む現代において、Fe-Ga磁歪合金は優れた磁歪性能と高い機械的特性をあわせ持ち、エネルギーハーベスティング(※)の一つである振動発電に用いられる材料として注目を集めています。本コラムでは磁歪材料の概要と振動発電への応用可能性について紹介します。

磁歪材料とは

磁歪効果および磁歪材料

鉄やニッケルなどの磁性体※は、内部に磁区と呼ばれる磁気方向が一方向に揃っている微小領域を持ちます。このような磁性体に外部から磁場をかけると、磁気モーメントが外部磁場方向に揃い、外形のわずかな変化が起こります。これを磁歪効果と呼びます。

これとは逆に、外部から力を加えて外形をわずかに変化させると、外部から加えた力の方向に応じて磁性体内部の磁気モーメントの方向が変化し、磁性体内部の磁気の通りやすさ(=透磁率)を変化させます。これを逆磁歪効果と呼びます。

大きな磁歪効果を示す材料は磁歪材料と呼ばれ、その性質を利用して磁歪センサや磁歪振動子など幅広い分野で活用されています。
(※磁性体:外部から磁界をかけると材料内部が磁化して磁気を帯びる物体のこと)

磁歪効果

図1 磁歪効果と逆磁歪効果

Fe-Ga磁歪合金

Fe-Ga磁歪合金は、鉄をベースとした磁歪材料の1つであり、大きな磁歪効果と高い機械的特性を併せ持っており、近年、磁歪式振動発電用途で注目を集めています。Fe-Ga磁歪合金の主な特性を以下に示します。

Fe-Ga磁歪合金

住友金属鉱山のFe-Ga磁歪合金単結晶の特徴

住友金属鉱山は長年にわたって様々な用途で使用される結晶材料を製造・販売してきました。この豊富な経験に裏付けされた単結晶育成および結晶加工技術を基に、IoT(Internet of Things)向け磁歪式振動発電に適したFe-Ga磁歪合金単結晶を開発しています。

住友金属鉱山では、垂直ブリッジマン(VB)法を採用したFe-Ga磁歪合金単結晶育成技術開発を行っています(図2)。Fe-Ga磁歪合金の磁歪性能は合金中Ga濃度のバラツキに大きな影響を受けますが、VB法では育成単結晶内部のGa濃度バラつきを小さく抑えることができます(図3:左)。さらに、特殊な後加工を施すことで材料内部の磁区の向きを揃え、磁歪量が高くそのバラつきが少ない磁歪材料を作製することができます。(図3:右)

現在、66mm×100mmL程度までの四角柱の単結晶の育成に成功しています。この単結晶から切り出すことで、様々なサイズ・形状の磁歪材料を作製可能です。

図2 垂直ブリッジマン(VB)法による単結晶育成の模式図

図2 垂直ブリッジマン(VB)法による単結晶育成の模式図

図3 結晶固化率※に対するGa組成(左)および平行磁歪量(右)

※固化率:融液から結晶を成長したとき、最初の融液の重量と結晶になった重量の比。育成結晶を横に寝かせた時の結晶の位置にほぼ相当する。
※平行磁歪量:Fe-Ga結晶の<100>方向に対して平行に外部磁場をかけたときの磁歪量

Fe-Ga磁歪合金単結晶を用いた発電デバイス検討事例

Fe-Ga磁歪合金単結晶を用いた発電デバイスの検討事例を以下に示します。
参照:金沢大学 振動発電研究室 磁歪式振動発電デバイス(V-GENERATOR)

図4にデバイスの構造を示します。U字型鋼材フレームに板状のFe-Ga磁歪合金を張り合わせ、その部分に銅線を巻き、Fe-Ga磁歪合金板の端部の下に永久磁石を配置します。この構成により振動発電デバイスには図4の赤線で示したような閉じた磁気回路が形成されます。フレーム先端に錘を取り付けて振動発電デバイスを振動体などに固定すると、錘に働く慣性力で錘が上下に振動します。この振動によりフレームが変形し、フレームに接着したFe-Ga磁歪合金板にも引張りと圧縮の力が交互に加わります。この時、逆磁歪効果でFe-Ga合金板内の磁気の通りやすさ(=透磁率)が変化し、結果としてコイル内で磁気変化が生じることで電圧が発生します。この電圧を電気回路を通して直流電力として外部に取り出ことでIoT(Internet of Things)などの自立電源として活用することが検討されています。

磁歪式振動発電デバイス図4 磁歪式振動発電デバイス(V-GENERATOR)の構造と発電原理

参照:関西大学 機械設計研究室 磁歪式橋梁センサデバイス

図5にデバイスの構造を示します。円柱状のFe-Ga磁歪合金の周囲にコイルを巻き、周囲に磁石を配置して外部磁場をかけるとともにSS400(圧延鋼板)でヨーク(磁石間を磁気的に結合するための回路)を形成し、SS400で蓋をした構造を持つ振動センサデバイスです。このデバイスは橋桁と橋脚間に挟んで使用します。橋上を車両が通過すると橋桁が上下に変化し、その変異で円柱磁歪材料の上下方向に圧縮応力が加わり磁束の通りやすさ(=透磁率)が変化、結果としてコイル内で磁束密度変化が生じて電圧が発生します。発生した電圧は整流・蓄電することで直流電力として活用することができます。

また発生電圧の大きさと橋梁の振動には相関関係があるため、この電圧信号を橋の振動情報として解析することで橋の健全性診断に役立てることができます。橋の振動で発電した電力を二次電池などに蓄えておき、一定間隔で橋の振動情報を取得・解析して橋の健全性を診断し、その結果をワイヤレス通信でサーバに送信するシステムを構築して運用することで、これまで人手に頼っていた橋の点検や健全性診断を自動化することが期待されています。

磁歪式自立型振動センサ図5 磁歪式自立型振動センサの構造と運用イメージ

振動発電×IoTによる様々な可能性

振動発電とIoTの組み合わせによる可能性は無限大です。例えば、振動から発電したエネルギーを利用して、遠隔地のセンサを絶えず稼働させ、気象、環境、人・物の動きや位置、構造物・機器の健全性などのデータをリアルタイムで収集することが考えられます。電池交換の必要性を減らしますのでメンテナンス負荷および廃棄物の削減に有効です。振動発電の活用で、産業、交通、物流、医療、福祉、インフラ、環境、生活、娯楽など様々な分野で新たな価値の創出が期待されています。

振動発電の活用可能性図6 振動発電の活用可能性

まとめ

住友金属鉱山では、独自の単結晶育成と加工技術により高品質なFe-Ga磁歪合金単結晶を実現しました。デバイスメーカー、大学など、様々な方々とのオープンイノベーションにより、高品質単結晶磁歪材料の特性を活かしたデバイスおよび用途を開拓し、様々な分野で新たな価値を生み出すアプリケーションの実現に貢献してゆきます。

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