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生成AIの次に来る「フィジカルAI」ーその成否を分けるセンサー素材と実装技術

生成AIは、言葉や画像などの“デジタル情報”を学習・生成することで、業務や創作の領域から普及が進んできました。いまAI活用はそこから一歩進み、温度、振動、光、化学成分といった“現実世界の情報”を取り込み、判断や動作につなげる「フィジカルAI」へと広がりつつあります。ロボットや設備、モビリティ、ヘルスケアなどへの応用が期待されています。フィジカルAI普及の鍵を握るのは、モデルの賢さだけではありません。現場で使えるAIにするには入力データの精度と安定性が欠かせず、その入口となるセンサーの性能は、素材選定に加えて基板・パッケージを含む実装設計にも大きく左右されます。

本記事ではフィジカルAIの基本を踏まえ、AIの「五感」を支えるセンサーの重要性と、素材と実装が競争力になる理由を解説します。

現実世界で働く「フィジカルAI」の課題

フィジカルAI(Physical AI)とは、センサーなどで物理世界の情報を取得し、状況を認識・推定したうえで計画や意思決定を行い、 ロボットや機械の制御を通じて実世界に作用するAIです。生成AIを含むAI技術を、知覚・計画・制御を結ぶフィードバックループに組み込み、 実際の動作につなげる点が特徴です。

例えば、ロボットであれば、カメラで周囲を捉えて距離を測り、障害物を避けながら自律的に移動できます。工場の設備であれば、 振動や温度の変化から異常の兆候を捉え、ライン停止や点検のタイミングを提案できます。さらにモビリティでは、人や物体の存在を検知して 安全な運転を支援します。ほかにも、医療やリハビリの支援、インフラ保全や災害対策などへの導入が期待されています。

このように、フィジカルAIは“外の世界”と接続されて初めて価値が出るという特徴があります。そのため、AIモデルの学習データを整えるだけでなく、 動作に必要な情報をどう扱うか、止める判断をどこにどう組み込むかといった運用まで含めた設計が欠かせません。フィジカルAIを「現場の道具」にするには、 AIの性能向上と同時に、現場条件をいかに正確に把握するかという工学的な視点が求められます。

フィジカルAIのサービス事例

サービス 概要
自動運転システム 車両周囲をセンサーで認識しAIが走行判断や操作を自動化する技術であり、高精度センシング統合やリアルタイム推論、物理世界の予測能力が生かされることで複雑な環境でも安定した運転判断を実現し、結果として事故削減や渋滞緩和、移動効率の向上等が期待される。
巡回警備ロボット カメラ・センサーから得られた情報を基に、AIで映像解析や行動認識を行い、施設内の異常を自律的に検知・通報するロボットである。これにより、警備員の負荷軽減や人手不足の解消、警備品質の向上等が期待される。
清掃ロボット 床清掃を行う法人向けロボットであり、LiDARや3Dカメラなど多重センサーで環境を認識する他、清掃ルート最適化・運用提案・状況学習といった自律的な判断も行う。これにより、清掃作業の効率化やコスト削減等が期待される。
自律型ロボットアーム 製造業をはじめとしたあらゆる領域での業務において、センサーやカメラから得られた情報から、自ら判断・計画する自律適応型ロボットである。これまで自動化が難しかった変種・変量生産や不確定環境下の作業の効率化や省人化等が期待される。

総務省 「AI事業者ガイドライン更新に向けた論点」(AIガバナンス検討会 事務局)2025年12月2日 資料より引用

フィジカルAIへの注目が高まっている背景には、現場が抱える課題があります。人手不足や熟練者の減少、安全基準の高度化、設備やインフラの老朽化など、要望は年々多様化しています。また、カメラやLiDAR(Light Detection And Ranging)センサーの小型化・低コスト化、エッジでの計算能力向上、ワイヤレス技術の発展も社会実装への期待を後押ししました。

一方で、フィジカルAIはデジタル空間のAIよりも厳しい条件で動きます。熱や振動、汚れや水濡れ、電源や電波の不安定さといった環境要因に加え、同じシステムでも現場ごとに条件が異なります。外部情報の入力が不安定であれば、どれほど賢いAIモデルでも期待どおりの性能は引き出せません。そこで重要になるのが、情報の入口となる「センサー」です。

「AIの五感」を担うセンサーが結果を左右する

マルチモーダル処理が可能な生成AI(テキスト、画像、音声など複数データ種別をまとめて扱うAI)は、人間で言えば「目」や「耳」に相当する機能を限定的に備えています。一方、フィジカルAIが現実世界を観測するためには、人間の「五感」にあたる高度なセンサー技術が必要です。

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代表例はカメラやLiDARなどの光学系ですが、現場で重要なのはそれだけではありません。目的に応じて温度、圧力、振動、磁気、化学成分、位置・姿勢など、さまざまなセンサーを組み合わせた複数の「感覚」を束ねて状況を推定するのが一般的です。

ただし、センサーの性能は「感度」だけで決まりません。ノイズ耐性や長期安定性、測定値のズレを校正しやすいかどうか、消費電力やサイズといった条件も関わります。例えば、測定値が日々わずかにずれるだけでも、アラートの閾値設定が難しくなり、AIを搭載しても誤報が増える要因になり得ます。フィジカルAIの実装では、長期にわたり同じ水準で安定して測り続けるという基本的な条件が最終的な成果を大きく左右します。

さらに、今後はデバイスに搭載されるセンサーの種類や数は増える前提で考える必要があります。現場の解像度を上げようとすれば、多数のセンサーを安定的に動かさねばならず、その分、基板やパッケージを含む実装設計の比重が高まります。つまり、フィジカルAIの競争力は、AIモデルの賢さに加え、AIの五感を「量産できる形」に整えられるかで決まります。

情報の入口となるセンサーとAIモデルの位置付けの概念図
情報の入口となるセンサーとAIモデルの位置付けの概念図
フィジカルAIでは、センサーで観測した情報をAIが判断して動作を制御します。センサー入力の品質が精度と安定性を決めます。

センサー進化の鍵を握るのは「素材」と「実装」

センサーの性能は、回路設計やアルゴリズムだけで決まるわけではありません。むしろ、素子素材の適切な選定と、実装技術・ノウハウの積み重ねが大きく影響します。例えば、機械振動を電気信号に変える仕組みでは、材料がどう変形し、それをどれだけ安定して信号へ変換できるかが本質になります。

一例として、住友金属鉱山が製造する「鉄ガリウム(Fe-Ga)磁歪合金単結晶」は、極めて微小な振動を磁歪効果により電気に変換することで、老朽化したインフラや工場設備の危険性を検知する振動発電素子として社会実装の検討が進んでいます。

また実装技術の観点では、配線設計、ノイズ・熱対策、保護コーティング、パッケージの密封性といった実装条件が、感度、温度ドリフト、耐環境性を左右し、現場で使えるかどうかに直結します。この点は、フィジカルAIの開発が進むほど増していくと考えられます。現場は理想的な条件ではなく、振動や温度変化、電磁ノイズなどの影響を受けやすい環境で使われることが多いからです。

そのため、フィジカルAIやエッジデバイス向けセンサーでは、素材と実装の工夫によって設計自由度を広げることが鍵になります。眼鏡や衣服などに装着するウェアラブルデバイスにフィジカルAIが搭載される可能性が考えられます。この場合は、柔らかい基材に対して、配線の耐久性をどう確保するかが重要な論点になるでしょう。

実際にフレキシブルな素材で回路や配線を形成する実装技術としては、住友金属鉱山グループの伸光製作所が開発した「セミフレックス基板」などがあります。導電性材料の選定や形成条件は抵抗値のばらつきや耐久性に影響するため、フィジカルAI向けのデバイスでは、こうした実装技術も含めて検討していく必要があります。

セミフレックス基板
伸光製作所のセミフレックス基板。コネクターや配線ケーブルといった部品点数の削減が可能になり、設計自由度の向上、組立工程の簡素化、機器の信頼性向上にもつながる。

フィジカルAIの設計とX-MININGとの共創

X-MININGは、こうした材料素材・実装の検討における比較検討の手がかりとなりうる素材、技術を紹介し、次の共創につなげるための情報収集、検討プラットフォームとして活用いただくことを目指しています。


フィジカルAIを「できるかどうか」の議論から、「どの条件で、どのコストで成立させるか」という現実の選択肢へ進めていく。そのためにAIの五感を支える領域から議論を深めることは、フィジカルAI時代のものづくりにおいても重要ではないでしょうか。
関連コラムや関連技術(素材・実装)情報もあわせて掲載していますので、ぜひご覧ください。検討中のテーマがある場合は、「X-MINING」のお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

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