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ウェアラブルデバイスや次世代半導体の未来へのシナリオとはーーIoT、省エネルギー社会を加速する注目マテリアル「微粒銅粉」

あらゆるモノがネットにつながるIoT(Internet of Things)社会において、ウェアラブルデバイス市場は拡大を続けています。医療やライフケアの分野にも広がりを見せ、スマートグラスやスマートウォッチに続く、新たなデバイスの開発が期待されています。

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競争力の高いデバイスを生み出すうえで重要なのが、素材技術の革新です。特にウェアラブルデバイスの実現には、電子機器や部品の軽量化・薄型化・小型化が不可欠であり、そのために素材・材料分野での進化が求められています。

こうした背景のなか、近年注目を集めているのが「微粒銅粉」です。
「微粒銅粉」は、ウェアラブルデバイスの進化を後押しする注目のマテリアル。デバイスのフレキシビリティや単回使用化を可能にすることで、ウェアラブルの実用性を高めるポテンシャルを秘めています。

本記事では、次世代ウェアラブルや半導体分野、そして微粒銅粉「UCPシリーズ」の可能性を解説します。

▼機能性材料事業本部「X-MINING(クロスマイニング)」についてはこちら

ウェアラブルデバイスが、社会的なインフラとなる未来へ

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革新を続けるウェアラブルデバイス。すでに生活に浸透しているスマートウォッチをはじめ、スマートグラスやスマートリング、フィットネストラッカーなど、日常の健康管理やコミュニケーションを支える製品は着実に普及しています。医療現場やスポーツ分野では、リハビリ支援やパフォーマンス向上を目的とした専用デバイスの導入も進み、ウェアラブルデバイスは“便利なガジェット”から“社会的なインフラ”へと進化しつつあります。

こうした基盤の上に、安価で高機能なウェアラブルデバイスが普及すれば、私たちの生活はさらに変化するでしょう。従来のデータ表示や収集にとどまらず、状況に応じたリアルタイムのケアやサポートまで可能になるはずです。

例えば、自動で体温を調節するスポーツウェア、心拍数や体調に応じて治療を支援するヘルスケアバンド、筋肉の負担を軽減し、高齢者の暮らしを支えるサポーターといった製品群が登場すれば、新たな市場の創出は必然です。

気軽に洗濯できる、あるいは単回使用が可能になるといった“ウェアラブル”としての利便性の進化も想定されます。加えて、拡張現実(AR)や、スマートコンタクトレンズ、埋め込み型デバイスとの融合によって、活用シーンは一層広がるはずです。

ウェアラブルを通じて得られるデータ活用にも期待が高まる

グローバルなIoTウェアラブルデバイス市場は、2024年に約82億ドル規模と推計され、2030年には約220億ドルに達すると予測されています。また、2025年から2030年にかけての年間平均成長率(CAGR)は17.5%に達することが見込まれています※。
市場拡大の背景には技術革新の進展や、健康・フィットネス分野への需要拡大、そしてウェアラブルデバイスがIoTエコシステムに広く統合されつつあることが挙げられます。

ウェアラブルデバイスを通じて取得される、バイタルデータなどの活用にも注目が集まっています。特に、個人の健康・医療・介護に関する情報であるPHR(Personal Health Record)は、健康寿命の延伸や未病対策といった社会課題の解決に役立つものとして期待されています。

近年、経済産業省もPHRの利活用を推進しており、健康診断結果や日々の体重・血圧・血糖値などに加え、ウェアラブルで得られる食事・運動・睡眠データなどを活用した多様なPHRサービスが登場しつつあります。
エクササイズ支援や食事管理、睡眠アドバイスといった日常的な健康づくりに関連したサービスの創出・拡大に加え、災害時のヘルスケアや感染症対策、また建設や製造業の現場における危機管理への活用、健康経営、保険分野との連携など、データ活用については、より幅広い展開が見込まれているのです。

※GVR「世界のIoTウェアラブルデバイス市場(2025~2030年)」2025年4月

こうしたウェアラブルデバイス市場拡大の鍵を握るのが、「素材技術」です。軽量化や耐久性、柔軟性、さらには低コスト化を実現できる素材の存在は、革新的なデバイスの普及に直結します。

住友金属鉱山が展開する各種機能性材料は、ウェアラブル端末への応用が期待されています。例えば、フレキシブルな電子回路基板を実現する銅張積層板や高い導電性と熱伝導性を活かした微粒銅粉、さらには、ARグラスなど光学デバイス用の可視光高透過ニオブ酸リチウム(LN)単結晶、電磁波シールドや高信頼性部品に適した超微粒ニッケル粉など、用途やデバイスの目的に応じて最適な素材の提案が可能です。

今回は、これらの中で、半導体分野で注目を集めている「微粒銅粉」の材料的な特長と、今後のウェアラブルデバイス開発におけるその可能性について、さらに詳しく解説します。

半導体分野での「銀」に変わる有力候補「微粒銅粉」

「微粒銅粉」は、電子産業の分野で近年注目を集めている素材の一つです。この新素材は、次世代パワー半導体や新しいウェアラブルデバイスへの活用を通じて、新市場を創出し、事業の拡大を後押しする可能性を秘めています。

住友金属鉱山の微粒銅粉「UCP シリーズ」は、「低温焼結性」「耐酸化性」「粒子制御技術」を強みに持つ、高機能微粒銅粉です。
住友金属鉱山が提供する「微粒銅粉」は200nm〜400nm程度の、いわゆる「サブミクロン」サイズの銅粉です。銅は銀に匹敵する高い導電率と熱伝導率を持っており、近年金属価格が急騰する銀の代替材料として期待が寄せられるようになってきました。微粒銅粉はその極微小なサイズにより、わずかな熱で高い反応性を示し、半導体や電子部品、またウェアラブルデバイスの開発および製造の分野において、新たな工程の可能性を生み出す材料の有力な候補となっています

しかし、銅は酸化しやすい素材であることは、よく知られています。とりわけ、微細になるほど表面積が増え、酸化が進みやすくなります。

UCPシリーズは、これまで難しいとされてきた微粒銅粉の「低温焼結性」と「耐酸化性」を両立させ、銅本来の「高導電性」「高熱伝導性」を存分に活かすことを可能にしたマテリアルです。銅を空気に触れさせずに液中で結晶化させる独自のプロセスを経て、表面に有機被膜を付与することで酸化を防止します。また、微細化することで、焼結温度を下げることを可能にしました。

※焼結とは――金属やセラミックスの粉末を加熱し、粒子同士を結合させて固定化するプロセス

大気中でも黒くならず銅色を維持できる銅粉末の写真 大気中でも黒くならず、銅色を維持できる銅粉末

<UCPシリーズの特徴>
UCPシリーズの主な機能と特徴▼詳しくはこちら|微粒銅粉製品 詳細ページ

「銀」より低コストな次世代パワー半導体の接合剤として期待

微粒銅粉の将来性を語る上で、今注目されるトピックの一つが、次世代型パワー半導体分野での活用です。次世代型パワー半導体の製造の際には、高温で安定して動作し、高い放熱能力がある接合剤が求められています。そのため、現在はまず接合剤としてはんだから銀の利用が検討されてきましたが、銀は近年の急激な価格高騰があること、銀は接合基板にAgメッキなど後処理が必要なこと、強電流下で「マイグレーション」と呼ばれるイオン移動を起こし、回路を短絡させるリスクがあります。

銅は、こうした銀の弱点を補える素材です。銀と同等の導電性・熱伝導性を持ちながら、マイグレーションが起きにくく、高温環境でも安定して接合性能を発揮します。適切な設計を行えば、銀に代わる接合剤として十分に機能することが期待されています。

銀と比べて原材料コストを安く抑えることができることは、微粒銅粉の活用を検討する際の大きなポイントです。
銀は現在1グラムあたり150~160円(※)程度ですが、銅は1.5~1.6円と、銀の100分の1程度の価格です。もちろん、途中で加工にかかる費用は銀でも銅でも同等に必要となりますが、出発点となる材料費が大きく異なります。従来は銀に頼ってきた分野においても、コスト優位性が期待できます。
※2025年9月現在

軽くて、薄くて、やわらかい、フレキシブルな基板の開発へ

微粒銅粉は、さまざまな用途に活用できます。
特に、電子産業においても環境負荷低減が求められる時代に期待されるプロセス「プリンテッドエレクトロニクス※」の分野では、キーマテリアルの一つです。
そこで役に立つのが、微粒銅粉を用いた「銅錯体ペースト」の活用です。
▼詳しくはこちら|コラム「プリンテッドエレクトロニクスとは」

※導電性のインクなどを印刷技術と組み合わせて、リジッド基板やフレキシブル基板上に電子回路やデバイスを形成する環境型次世代配線技術)

copper-circuit-polyimide.jpg.webp当社の微粒銅粉を用いた透明ポリイミド基板上の耐酸化性銅回路

ウェアラブルデバイスは多くの場合、柔軟性のあるフレキシブル基板上に電極を形成します。しかし、フレキシブル基板は一般的に耐熱温度が低く、適用できる温度は概ね200℃以下です。したがって、非常に微細な銅粉を用いて工夫しながら焼結させ、導電性を確保する必要があります。このプロセスは一般にプリンテッドエレクトロニクスと呼ばれ、そこで役に立つのが、微粒銅粉を用いた「MODペースト(金属錯体導電性ペースト)」です。
▼詳しくはこちら|金属錯体導電性ペースト

MODペーストは、プリンテッドエレクトロニクスを介して、布地などの柔軟な素材の上に電子回路を形成できる点に強みがあります。例えば、手袋に電極を仕込んで発熱または冷却するといった防寒・耐熱の用途や、抗菌性を備えたバイタルデバイス、使い捨てができる医療用ウェアラブルデバイスといった製品の実現が可能だと言われています。

wearabledata.jpg.webp布地など柔軟な素材上に電子回路を形成したウェアラブルデバイスのイメージ

さらに、衣服や鞄に電子回路を織り込み情報を持ち歩く、アクセサリー型の小型デバイスやメガネにカメラやディスプレイを搭載する、服自体に温度調整機能を持たせるなど、創造の可能性は多岐にわたります。
銅錯体を大量かつ安価に製造し、これまでにないウェアラブルデバイスを展開できれば、社会的なインパクトも非常に大きいと考えられます。

また、添加剤として樹脂やインクに練り込む、あるいはペースト化するなど、多様な製造プロセスに対応できる柔軟性も備えています。こうした特長から、ウェアラブルデバイスや使い捨て型のデバイスなどに応用できる可能性があり、幅広い分野での利用が期待されているのです。

他にも粉末冶金によって金属部品の製造に利用できるほか、銅の持つ高い抗菌性を活かした抗菌剤用途にも展開が可能です。
▼関連リンク 対談コンテンツX-TALK「命を守る金属「銅」の抗菌作用。」

新たな価値の創造へ。共創や新規事業のご相談をお待ちしています

ウェアラブルデバイスを始めとする、新たな電子デバイスの開発と実用化、また新規サービスの創出を進めるためには、技術シーズを持つ企業と多様なパートナーが知恵を融合させ、事業を推進することが欠かせません。そこで、住友金属鉱山では、異なる技術やアイデアとの掛け合わせで、新たな製品の登場や市場の創出につなげる共創プロジェクト「X-MINING」を進めています。

微粒銅粉を扱う素材メーカーとして、MODペーストのさらなる技術開発や、プリンテッドエレクトロニクス、回路形成といったプロセス技術を持つ企業、また医療機器メーカー等との共創を通じて、微粒銅粉の可能性を実用的かつ市場性の高い製品へと発展させることを目標としています。

また、企業間の協力にとどまらず、産学連携による共創も極めて重要です。今後はこうした取り組みをさらに広げ、より多様なパートナーとともに微粒銅粉の新たな可能性を切り拓いていきたいと考えています。

銅は銀よりも低コストで、さまざまな特性を備えています。活用をさらに進めることで、多様なデバイスを低コストで供給することができれば、世界的な社会課題の解決にも貢献できるでしょう。私たちの「UCPシリーズ」は、その実現を支える素材です。新規開発やビジネスのアイデアをお持ちでしたら、ぜひ「X-MINING」までご相談ください。
皆さまとともに共創を進め、銅の新たな可能性を形にしていきたいと考えています。

Written by :X-MINING編集部

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