鉄ガリウム(Fe-Ga)磁歪合金単結晶 【開発品】
Fe-Ga Alloy Single Crystal
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非常に微小な振動から電気を得られるため、老朽化したインフラや工場設備の危険性を検知するなど、さまざまな分野での活用が期待されている振動発電デバイス。その可能性にいち早く着目し先駆的な研究を重ねてきたのが、金沢大学の振動発電研究室です。 住友金属鉱山では、金沢大学振動発電研究室の研究に、独自に開発した単結晶材料「鉄ガリウム磁歪合金単結晶」を提供し、研究活動をサポートしています。金沢大学を訪ね、共同研究のパートナーである北翔太氏、髙村亜由美氏と共に、その可能性を語り合いました。
――鉄ガリウム磁歪合金単結晶とはどういった材料でしょうか。
高橋 磁石を近づけると形が磁化方向に伸びる性質を持った材料を磁歪材と呼びます。>鉄ガリウム磁歪合金単結晶は、鉄に対してガリウムを2割程度混ぜ、かつ、原子が同一方向に並んだ「単結晶」の状態にすることにより、安定した磁気特性を持たせた板状の材料のことです。
泉 鉄にはそもそも磁歪の性質があり、磁化させた方向に伸びますが、そこに力をかけると磁化しなくなって元に戻ります。これを逆磁歪効果と呼びますが、それによって目で見てもわからないほど微小な振動から大きな磁束変化が発生します。私たちは、その振動から発生した磁束変化を電磁誘導の法則により、電気に変えることで将来何かに役立つ新しい技術が生み出せるのではないかと考え、研究を重ねてきました。鉄ガリウム以外にも効果が得られそうな素材はいくつかあり、バナジウム-コバルト系やレアアース系の素材もありましたが、毒性や環境負荷がなく安全性の高い素材を取捨選択するなか、最も磁歪が大きく安全性が高い材料として鉄ガリウムにたどり着きました。
――金沢大学との共同研究はいつ頃からスタートしたのでしょうか。
泉 まだ私がこの研究に参画する前の2016年頃、「V-GENERATOR」という振動発電デバイスを開発していた金沢大学の上野敏幸教授にコンタクトを取らせていただいたのが最初です。当時はまだ単結晶化できてはいませんでしたが、その後、私が研究を引き継ぎ、2018年に単結晶化が実現。V-GENERATORの研究に活用していただくようお願いをしました。
北 V-GENERATORは、金沢大学の振動発電研究室が中心となって社会実装を目指し研究を推進している磁歪式振動発電デバイスです。動きからの発電といえば、小学校の頃、コイル内の磁石を素早く抜き差しすることで発電し、その電力で豆電球を点灯させる実験を経験された方も多いと思います。V-GENERATORは電磁誘導と呼ばれる発電の基本原理は同じですが、磁石の抜き差しの代わりに磁歪材を伸縮させることで発電します。鉄ガリウムは微小な伸縮から大きな磁束変化が得られるため、この材料を活用することで微小振動から高効率に発電することができるようになりました。
振動からエネルギーをつくりだす未来の発電技術|V-GENERATOR北 とはいえ、鉄ガリウムならどれでも良いのかと言えばそうではなく、磁歪材の特性が安定していなければ実験の考察ができません。また社会実装を経て量産化を目指す際、その安定性をどう実現するか。それが私たちにとって大きな課題でした。その点、住友金属鉱山さんの鉄ガリウム磁歪合金単結晶は非常に安定した特性を持っており、研究の推進に大いに役立っています。
高村 私は実際に実験をする立場なので、その特性の良さをひしひしと感じています。例えば、実験サンプルを5台製作し比較する場合、特性が安定した材料を活用できなければ、信頼性の高い比較データを出すことはできません。しかし、住友金属鉱山さんの材料を使うことで、根拠がはっきりとした、信頼性の高い結果を出せるようになりました。特性のばらつきがない分、作業も効率化できるので、研究のスピードも速まっています。
――鉄ガリウム磁歪合金単結晶はなぜ磁歪が安定しているのでしょうか。
泉 理由は大きく2つあります。一つ目は結晶の育成の精度、もう一つは加工の技術の高さです。 鉄ガリウムは、きれいに積み重なった鉄の結晶(BCC=体心立方格子構造)の中にガリウムを溶かして作ります。この作業を「育成」と呼びます。磁歪はBCCが変形して起きますが、ガリウムが均等に入らないとBCCの変形がバラつきます。これが安定性を欠く要因となります。どうすればガリウムを均等に入れて綺麗な結晶が育成でき、均等に伸び縮みするようにできるか。その研究を日々続けています。
加工は、伸び縮みする方向をコントロールするために必要な技術です。結晶が整っていても、それをただ切っただけでは思うような効果は発揮できず、加工によって綺麗に整える必要があります。それによって初めて、どの板も同じように振動するのです。住友金属鉱山は鉄ガリウム以外にもいろいろな単結晶材料を手がけていますが、基本的にどの材料においても、ただ結晶を作るだけではなく、高い技術のもとで加工を施しています。
育成の技術と加工の技術。その両方を高いレベルで持っているからこそ、大学の研究にも対応できる材料を提供できているのです。
――V-GENERATORによってもたらされる技術はどのようなところに活かされるものでしょうか。
北 2019〜2023年に実施していたプロジェクトでは主に2本柱で動いていました。一つは工場内の生産設備です。加工機械等を始めとする生産設備には振動が常に存在し、かつモニタリングの需要もあります。工場のラインにおいて一部の設備が止まってしまうとライン全体が止まり、1日で数億円の損失が生じることも考えられるため、継続的な監視が欠かせません。そうした設備を対象に、振動発電デバイスを電源にセンシングし、異常を早期に感知しようという発想です。工場の中にはたくさん電源があるのだから振動発電に頼らなくても良いのでは?と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、センシング箇所が非常に多くなると配線が増えることで転んでケガをするリスクや断線リスクも生じますし、電池の数が増えると管理・交換に膨大な手間がかかります。しかし、振動のエネルギーを使えばそうしたリスクを回避できます。
もう一つはインフラ監視です。インフラの老朽化は国や自治体にとって非常に深刻な問題で、全国各地で水道管の破損が起きていますし、海外では橋梁が突然崩れて多くの死者が出るような事故も起きています。日本では人材不足の問題で様々な分野で点検が行き届かないという課題もあります。しかし、点検が難しい箇所や危険を察知すべき箇所をセンシングし、危険な予兆を感知できれば、事故が起きる前に道路を通行止めにするなどの対策が取れます。自治体だけでなく、点検を担う企業にとっても、遠方や危険な場所にわざわざ従業員を行かせる必要がなくなり、人件費や出張費の削減、従業員の安全確保といったメリットが得られます。最近では、より大きなサイズの鉄ガリウムを必要とする研究ニーズも高まっていますが、住友金属鉱山さんにはその要望にもご対応いただいており、たいへん助かっています。
泉 我々は磁歪材の性能アップを常に追及しており、初期にお渡ししたものと現行のバージョンでは、現行のバージョンのほうが、確実に精度が上がっています。サイズも、最初は小指ぐらいのサイズのものでしたが、2024年には96mm×24mm×3mmほどの大きさの材料をお渡ししました。板が大きくなれば大きくなるほど綺麗に結晶を作るのは難しくなりますが、さらに大きなサイズのご要望にお応えできるよう、今も研究を重ねています。
高橋 育成では、速度と温度を厳密に管理しなければいけません。しかし、作るサイズによって適切な速度や温度は微妙に変わり、少しでもズレてしまうと均一の性質が得られなくなってしまいます。サイズを大きくする際に難しいのはその作業です。
泉 結晶だけではなく、加工技術もどんどん難しくなります。大きくなればなるほど磁歪の方向が揃いにくくなるためです。その課題をクリアするための新たなイノベーションも必要だと考えています。
【Part 2】では、振動発電デバイスの社会実装に向けて金沢大学が取り組むサプライチェーン構築の取り組みと、金沢大学×住友金属鉱山の共創の未来について語り合います。
「X-MINING(クロスマイニング)」は、住友金属鉱山のDNAのもとに新たに始まる、未来を見据えた新しい共創のかたちです。
日本を代表する資源製錬会社の一つ住友金属鉱山には、積み上げた独自の技術と素材力があります。その技術や素材力も今や私たちの手の中でのみ守り育てる時代ではなくなりました。ならば、それらを有効に活用しイノベーションを実現するにはどうすべきか。その答えを共に探すパートナーと技術の創出や課題の解決に取り組むプロジェクトが「X-MINING(クロスマイニング)」です。
本ウェブサイトでは、材料の機能や技術、SDGsに貢献するソリューション事例など幅広く紹介します。当社製品と皆様のアイデアを”共創"(クロス)させ、社会にインパクトを与える新たな価値を“掘り起こすこと”(マイニング)を目指します。
X-MININGのイノベーションの
起点となる
住友金属鉱山の材料製品を紹介します。