
11月12日(水)から3日間にわたり、幕張メッセで開催された「第5回サステナブルマテリアル展 -SUSMA-(以下、SUSMA)」。住友金属鉱山は「Next Innovation With You」
をテーマに、2020年から機能性材料の情報発信サイト「X-MINING(クロスマイニング)」を中心に、共創による社会課題解決の取り組みを広く紹介しました。この記事では各担当者へのインタビューを軸に、展示の様子をレポートします。
「共創」による化学反応が、新たな価値を生み出す
まず初めに取り上げるのが、本展参加にあたって住友金属鉱山が掲げたテーマ「Next Innovation With You」についてです。
非鉄メーカーである住友金属鉱山は、430年以上にわたり環境の変化・社会のニーズに応じて、常に変化を続けてきました。現在は、高効率・省エネな機能性材料の展開や、水素社会への適応など、サーキュラーエコノミーやカーボンニュートラル社会の実現を目指す取り組みに力を入れています。
そして、変化を続けるためのキーワードとなるのが、異なる知識や専門領域を持つパートナーとの“共創”です。共創により新技術の創出や課題解決を目指すプロジェクト「X-MINING」を統括する東福淳司は、X-MININGの立ち上げの背景についてこう語ります。
東福 現代社会は、“モノをつくれば売れる”時代ではありません。グローバル化や社会課題の複雑化、ニーズの多様化により先行きが予測できず、従来のビジネスモデルや一つの企業だけでは対応が難しくなっています。特に私どもが扱う素材はコモディティ化が早く、価格以外での差別化がしにくいという課題を抱えています。そこで、われわれにはないアイデアや視点を持つ異業界のパートナーとの共創によって化学反応を起こし、新規事業や新しい市場を開拓していく必要があると考えます。
当社では2020年に「X-MINING」の特設サイト(本サイト)を設立し、材料の機能や技術、ソリューション事例などを幅広く紹介しながら、共創パートナー様を募ってきました。現在、サイトには年間10万を超えるアクセスがあり、多くのイノベーションのタネが集積されています。すでにその中からさまざまな業界との共創プロジェクトが、実用化や社会実装に向けて歩みを始めています。
例えば、近年の猛暑により農業用ビニールハウスの中の作物が枯れ、作業する人が熱中症になることを防ぐために、当社の近赤外線吸収材料「SOLAMENT®(ソラメント)」を使ってハウス内の温度を下げる製品が、すでに実用化に至っています。さらにアパレルやライフサイエンス、医療など、これまで当社がまったく関わってこなかった分野でも、新たな価値を生みだす取り組みが進んでいます。
東福 SOLAMENT®を糸に練り込めば、自己発熱する暖かい服がつくれるとわれわれは考えました。それに対して、アパレル業界の方は『従来より服を薄くできるなら、よりかっこいい服やかわいい服がつくれる』と発想される。結果的にデザインの幅が広がり、新たな付加価値をお客様に提供できます。このように、素材に異なる視点が組み合わさることで、新たな機能やスペック以外の価値が生まれ、住友金属鉱山が培ってきた技術の可能性も大きく広がるのです。
現在、「新しいことに挑戦したい」という意欲が高い中堅企業様やスタートアップ企業様が、当社との共創に参画しています。
東福 機能性素材や事例に興味をもった方からの問い合わせや要望をもとにディスカッションを重ね、仮説を検証するための実証実験をするなかで、さらに新たなアイデアが生まれてくるケースも多いですね。『こんな機能をもった素材はないか?』といったご相談も遠慮なくいただきたいです。
さらに東福は、「今後はさらに当社のR&D部門とも連携し、これから開発される新しい素材も積極的に紹介していきたい」と語ります。
東福 私どもはバリューチェーンを包括的に捉え、エコシステム全体を巻き込んだオープンイノベーションにより、世界に大きなインパクトを与えるような新しい価値の創造を目指しています。当社の機能性素材とパートナー様のビジネスをかけあわせることで、どんな面白いことができるか。ぜひ幅広い業界の方と、その可能性を一緒に掘り下げていきたいと思っています。
イノベーションの可能性にあふれた“共創のタネ”たち
ここからは、SUSMAで展示した開発中の“共創のタネ”のうち、3つの素材をピックアップして紹介します。
電子デバイスのデザインをより自由に――「MODペースト」
まず最初に「MODペースト」について、製品開発部の半澤和樹に話を聞きました。
半澤 MODペーストは、低温焼結銅と錯体インクを混ぜあわせてペースト状にしたもので、電子回路を印刷技術でつくる「プリンテッドエレクトロニクス」の社会実装を進める材料です。従来の工法より少ない工程で簡単に電子回路をつくれるため、エネルギー消費量や廃液、廃棄物を減らすことができ、環境負荷の低減につながります。

MODペーストは従来の導電性インクより導電性が高く、比較的低温・短時間で反応し、耐酸化性に優れているのが特徴です。200度程度の低温で導電性を引き出すことができるため、樹脂基板の上にもプリントできます。その結果、これまでより自由な配線形成、少量多品種に対応でき、電子デバイスのデザインの幅が大きく広がります。
半澤 プリンテッドエレクトロニクスは、以前より電子回路の製造技術として期待されておりましたが、社会での実用化は限定的とされています。しかし、MOD ペーストはその技術の社会実装の可能性を大きく広げる可能性がある材料として、主にデバイスメーカーや配線基板メーカーから高い関心を寄せていただいています。3D配線などさまざまな素材上に電子回路も可能となるため、従来にはないデザインを有する電子機器の開発にも貢献できるかもしれません。
「銅」という素材のポテンシャルを広げる――「耐酸化ナノ銅粉」
続いてお隣のブース「耐酸化ナノ銅粉」についても、半澤から話を聞きました。こちらはMODペーストにも使われている、低温で焼結できる銅粉です。
半澤 一般的に、金属粒子は微細化させることで焼結温度を低温化できますが、銅粉は微細化すると酸化によって取り扱いが難しくなります。そこで当社の湿式合成技術を駆使して表面に有機被膜をつくることで、微粒でありながら酸化せず、取り扱いやすいナノ銅粉を開発しました。
材料合成で使用されるオーブンの焼成温度は 500℃以上の温度で使用され、高い電力が使用されます。耐酸化ナノ銅粉は低温で焼結できるため、使用エネルギー量の削減にも貢献できます。他にも銅は銀よりも安価であるため銀の導電材料を開発する材料メーカーから、銀粉を銅粉に置き換えてコスト削減を図れるのではないかとの期待もあります。さらに抗菌・抗ウイルス・防カビ材料としての特性に関心も得られています。
半澤 耐酸化ナノ銅粉は少量添加で触媒効果が出るため、コスト削減、省資源化にも貢献します。近年は銀イオンを洗濯水に溶かし出して抗菌・防臭効果を発揮する機能をもつ洗濯機もありますが、この銀をより安価な銅に置き換えられるのではないか。排水に銅粉を浸すことでバクテリアの繁殖を防げるのではないか、あるいは電気分解の反応触媒に使用したいなど、さまざまななアイデアもいただいています。
無限の可能性を秘めた「振動」による発電システム――「ENERGY HARVESTING」
最後に「ENERGY HARVESTING(振動発電素子)」のブースで、材料研究所研究員の江川諒都に話を聞きました。

ENERGY HARVESTINGとは、身の回りの環境に存在する微小なエネルギーを回収して電力に変換する技術のこと。このブースでは、金沢大学の振動発電研究室が開発した振動発電デバイスを展示しています。
江川 このデバイスは当社の「鉄ガリウム(Fe-Ga)磁歪材料」の特性を活用し、磁歪によって振動発電します。磁歪とは、磁場をかけると外形が変化したり、外部から力を加えると磁気の通りやすさが変化したりする金属の性質のこと。このデバイスのような仕組みを使うことで、橋の振動によって発電した電気で橋の老朽化をモニタリングする機器を動かすなど、電源や電池の交換が不要な自立型IoTシステムを実現できます。当社のFe-Ga磁歪材料は、独自の単結晶育成と加工技術により、高品質で均一な単結晶材料を実現し、さまざまなサイズ、形状に加工できることがメリットです。
江川 磁歪による振動発電は、遠隔地のセンサーを絶えず稼働させ、気象や環境、人やモノの動きや位置、構造物や機器の健全性などのデータをリアルタイムで収集する用途に最適です。インフラのモニタリングや防災、畜産、害虫駆除、モビリティー、物流管理、プラント保全、スマート農業など、あらゆる分野での活用が期待できます。今回の展示会では鉄道関係や自動車関連の方がとくに興味を示してくださっていますが、特定分野に特化したデバイスを製造してくれるパートナーも求めています。
よりワクワクする未来、よりサステナブルな社会を目指して
本展では、この他にも計8つの機能性材料を展示。幅広い業界の方が、熱心に当社スタッフの説明を聞く姿が印象的でした。また、ブース内で3日間にわたって開催された東福らによるセミナーも、人だかりができるほど盛況となりました。
※セミナーのアーカイブ動画は、後日公開予定です。
X-MININGのWebサイトでは、今後さらに多くの機能性材料や活用事例をご紹介していく予定です。ご質問や課題、コラボレーションのアイディアをお持ちの方は、サイト内から簡単に問い合わせいただけますので、ぜひお気軽にご連絡ください。
住友金属鉱山はこれからも、みなさんとの共創により、よりワクワクする未来、よりサステナブルな社会を目指していきます。