放熱材料・熱伝導複合材料とは
近年のEV等の増加の背景には温室効果ガスの削減の目的があります。二酸化炭素に代表される温室効果ガスは、化石燃料の燃焼に伴い発生することは広く知られています。私たちは長年、燃焼により発生した熱を直接利用したり、電気に変換したりしながら生活を行ってきました。持続型発展が求められる時代において化石燃料を由来とする燃焼の削減と燃焼により発生する熱の有効活用・伝達効率改善は急務と言えます。
熱の損失に着目すると、熱を電気に変換する際に損失する熱が大きいことと共に、電気を動力に変換する際の熱による損失も無視できないことがわかります。これらの損失される熱を有効に活用する「サーマルマネジメント」という概念も製品設計上より重要になってきています。特に電力を変換する際の熱は、変換モジュール部材の早期損傷や故障の原因ともなるため、より熱を伝えやすくする放熱材料・熱伝導複合材料が求められています。
放熱材料・熱伝導複合材料はこうした熱に対する新しい課題感をもとに発生した製品群のため、供給者側が命名した製品形態としての名称や、使用者側が求める用途による呼称が製品名となって混在しています。ここでは、広く流通している製品群名をもとにその製品の得失を述べたいと思います。
それぞれの放熱材料・熱伝導複合材料の得失
放熱材料・熱伝導複合材料は発生する熱源と放冷・伝熱体との間で使用されます。これらの製品群は温度の異なる2面間の界面で使用されるため、サーマルインターフェースマテリアル(Thermal Interface Material :以下TIMと略記)と総称されます。それぞれのTIMの得失を簡単に述べます。
1) 放熱シート(製品の状態を分類する名称)
最も広く普及している使用形態です。放熱シートはアルミナや酸化亜鉛など熱伝導性のある無機粉末・金属粉末、もしくはカーボンやグラファイトなどの粉末に、エポキシ・シリコーンなどの樹脂成分を加え、シート状に成型した放熱材料です。
求められる放熱性能に対応し比較的広範囲の熱伝導率の製品群からなり、部品の取り付け隙間に応じて各種の厚さをもったシートが販売されています。安定した放熱性能を得るには一定の締め付け圧を必要とするなどの注意点はありますが、放熱面積を自由に選べるなどの利点があります。
ただし貼り付けの自動化が難しい、一旦張り付けたシートのリペア性に劣るなど、作業性として他製品に劣る場合もあります。
2) 放熱グリース・熱伝導ペースト(製品の状態を分類する名称)
放熱グリースは、熱伝導性のある粉末を用いる点で放熱シートとの共通性を持ちますが、油と増ちょう剤という物質を使用してグリース化させた製品群です。サーマルグリース、熱伝導グリースなど別名称も混在しています。
放熱グリースは半固体で部材の熱膨張による変形に追随しやすく、加圧によって薄く広がるため2面間の熱抵抗を下げやすいという特徴があります。またディスペンサー・メタルマスク・スクリーンなどで塗布することが多く自動化がしやすく、除去と再塗布などリペア性に優れる特徴があります。
一方、油分を含有するため塗布部分での滲みだし(プリードアウト)、部材間の熱変形に伴う流出(ポンプアウト)が発生すること、放熱性は粉末の含有率に比例し、高含有率では硬くなり印刷性との両立が難しいなどの難点があります。
3) フェイズチェンジシート(製品の状態を分類する名称)
「フェイズチェンジ」とは例えば固体が液体などに物質の状態が変わる「相変化」と訳される現象です。フェイズチェンジシートは常温では部材に張り付けたシート状もしくはマテリアルに分類される部材に塗布された乾燥膜の状態で、熱が加わると軟化・液化し放熱グリースに近似した性能を示す組成物です。
常温で固体にするため、熱可塑性樹脂やワックス、増ちょう剤などを含むことを特徴にしています。フェイズチェンジシートは単独で販売されている製品もありますが、おおくはモジュールの放熱面に印刷されて出荷され、実装の際の放熱材の貼り付け、印刷工程の省略などのメリットがあり、特にメンテナンス等の現場施工用に好まれています。
ただし、組付けの際シートは固体状態でモジュールごとねじ止めされるため、締結時にトルク管理を十分に行わないと加熱後の溶解で薄膜化し、ねじのトルク抜けを起こす点など取り扱い上の注意が必要です。
4) ギャップフィラー(製品の用途を分類する名称)
ギャップフィラーは、いわば「段差や間隙を埋める」放熱・熱伝導材料であり、製品の形態というより用途から命名された製品群です。製品の組成的に熱伝導性のフィラーを使用することは同様ですが、成分に熱硬化型の樹脂を加えた製品が主流となっています。ギャップフィラーはティスペンサー等で部材間に充填したのち熱硬化させ固定化させます。
微小な隙間の放熱性を向上させたいだけではなく、高さの異なる発熱体を同一の放熱板で放冷したい場合など、立体的な放熱構造をつくれる利点があります。放熱性を向上させると硬くなり展性が悪化すること、熱硬化性の樹脂の特徴によりポットライフが比較的短いこと、硬化後はリペア性がないなど弱点はありますが、使用量が最も増加している放熱材料の一つです。
5) 放熱接着剤(製品の用途を分類する名称)
放熱接着剤は、接着剤成分の熱伝導性のフィラーを加えたものです。常温硬化型や加熱硬化型、1液・2液型などの種類があります。これらの製品群は発熱体と冷却体を簡便に接着・固定化することが可能です。2面間がごく薄く熱抵抗を低減させたい場合に使用されます。
他の放熱材料に比べ、接着後の耐環境性、耐振動性などの強度維持性能など接合部材としての要求が強い場合に使用されます。リペア性が望めないため構造部材として使用されます。
放熱材料の性能・熱伝導率と熱抵抗
放熱材料は効率よく熱を伝えることを目的とした材料です。ここで「熱を伝える」指標には2つの観点があります。一つは熱伝導率という「物質中の熱の伝わりやすさ」という観点の指標と、もう一つは熱抵抗という「熱の伝わりにくさ」という観点の指標です。
熱を電気に置き換えれば、熱伝導率は「電気伝導率」、同様に熱抵抗は「電気抵抗」に相当します。熱伝導率は距離(厚さ・長さ)が関係ない物質固有の値です。熱を効率よく伝達したいとは、最終的は発熱体と放熱体間の各部材の「熱抵抗」をトータルで低減したいという要求です。熱抵抗は電気抵抗と同様に2体間の距離(厚さ・長さ)により増加し、その接触部での接点抵抗に相当する界面熱抵抗によっても増加します。
トータルの熱抵抗の低減のために「熱伝導率」に優れるぞれぞれの材料を選ぶのは有効ではあるものの、その部材の厚さや接触面積の制御、界面熱抵抗の低減などの最適化をはかることが重要になります。極端な例をいえば、100μm厚さの熱伝導率15W/mk級の放熱シートを使うよりも、20μmまで薄くなる熱伝導率4W/mkの放熱グリースを使う方が部材間の熱抵抗は低くなり、全体の放熱性としては向上することになります。
以上の様に、放熱材料・熱伝導複合材料の性能を表す指標には熱伝導率や熱抵抗がありますが、シート状の製品やギャップフィラーではその製品厚さ、放熱グリースやフェイズチェンジシートでは加圧により薄くなる最小厚さ(Bond Line Thickness : BLT )に注意が必要です。この加圧時の最小膜厚さBLTの厚さは、熱伝導フィラーの充填比率が小さい場合は、ほぼ使用するフィラーの最大粒子径と同一ですが、フィラーの充填率が多くなるとフィラー間の凝集などにより最大粒径より厚くなる傾向にあります。そのためフィラー充填率が高い、粘度が高めの高熱伝導率の製品では所定の圧力での実測が不可欠となります。