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X-TALK Vol.8 【Part 1】 命を守る金属「銅」の抗菌作用。
北里大学病院の20年を超える研究で裏付けられた銅の抗菌活性の取り組みに、その可能性を探る。

命を守る金属「銅」の抗菌作用。
北里大学病院の20年を超える研究で裏付けられた銅の抗菌活性の取り組みに、その可能性を探る。

住友金属鉱山の歴史は銅の精錬から始まり、創業から430年以上を経た現在も粉体材料としての銅の新たな可能性に挑み続けています。そのなかで近年着目しているのが、銅がもつ高い抗菌活性(菌の増殖を抑える性質)です。 今回は、銅の抗菌性を長年研究する北里大学医学部非常勤講師で医学博士の笹原武志先生を訪ね、銅が持つ特性や魅力の発信に取り組む一般社団法人日本銅センターの小澤隆広報部長も交えながら、北里大学病院における研究の内容と具体的な効果についてお話をうかがいました。

対談者プロフィール

ほぼすべての微生物に抗菌効果を発揮する金属「銅」

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仲辻

笹原先生が銅の抗菌分野で研究活動をされるまでの経緯を教えていただけますでしょうか。

笹原

私が研究を始めるまで、医学の世界で銅に抗菌活性があることを知る人はほとんどいませんでした。銅は明治以降、通電の活性に優れた金属として重宝されてきましたが、治療薬のなかに銅化合物が若干入っているケースはあるものの、銅に医学的な使途があることはまったく知られておりませんでした。

金属の中では常に自由電子と呼ばれる電子が動き回っています。その電子の動きによって生じる特性の一つが電気を流す伝導性なのですが、予備的な試験を通して、導電性以外に抗菌、特に細菌に対する抗菌特性を持つことがわかってきました。そこで、そのメカニズムや効果についてより具体的な研究をスタートさせることになりました。

仲辻

具体的に銅はどのような微生物に対して抗菌活性を発揮するのでしょうか。

笹原

私たちの研究では、医療系分野で代表的な細菌のほとんど、例えば腸管出血性大腸菌O157や黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌、カンピロバクター、レジオネラ菌などに対して非常に優れた抗菌活性があることがわかっています。また、ヒト免疫不全ウイルス( HIV )やノロウイルス、インフルエンザウイルス、そして新型コロナウイルスに対しても優れた効果があったことを実証しています。死滅にやや時間がかかるものの真菌(カビの胞子)カビに対しても効果がありますし、寄生虫の原虫に対しても死滅効果があります。

つまり、私たちの生活環境を取り巻くほとんどの微生物に対して効果を発揮するととらえていただいてよいかと思います。

▼銅の抗菌効果が期待できる微生物
・細菌:(腸管出血性大腸菌O157・黄色ブドウ球菌・レジオネラ菌)
・ウイルス: (ノロウイルス・新型コロナウイルス)
・真菌:カビ(アスペルギルスの胞子)
・原虫: クリプトスポリジウム等

20年以上前から銅の抗菌に関する実証実験を継続

仲辻

日本銅センターさんとのつながりもそうした研究のなかで生まれたものでしょうか。

笹原

お付き合いが始まったのは2001年、レジオネラ菌に関する研究のときでした。その後、2005年にICA(世界銅協会)との共同プロジェクト研究「Copper in Health」を通して北里大学病院における衛生環境の改善に資する実証実験を実施して以来、銅に関するさまざまな研究活動において長くご一緒いただいています。

小澤

日本銅センターは1964年11月に設立された組織です。銅の用途開発および需要拡大、銅に関する調査・研究、広報活動の3つを使命としています。ただ、我々自体が研究施設を持っているわけではないため、大学や研究機関にご協力いただき、共同で調査や研究を行っています。北里大学病院様とも、これまでさまざまな実証実験でご一緒いただいています。

仲辻

実証実験の具体的な内容を教えてください。

笹原

当病院は2014年に旧病院から建て替えられましたが、旧病院時代の2005年から2007年にかけて皮膚科病棟、NICU(新生児集中治療室)、ICU(成人の集中治療室)のいくつかの場所に銅製品を導入して実証実験を行いました。2014年の新病院開院後も、ドアのハンドルを銅合金製のものに交換したり、メディカルPCカートの取っ手に銅箔を巻いたりして抗菌性能の調査を継続しています。

その結果、銅合金製ドアハンドル表面に付着する細菌数は、一般的なクロムメッキ製ドアハンドルに比べて2分の1から6分の1ほどの割合で推移していることがわかりました。

「私、銅のファンになったんです」

仲辻

上野様は、先生の銅の抗菌研究に長く関わられていたそうですね。

上野

はい。私は現在、北里大学病院看護部の副部長をしていますが、先生と最初に会ったのはNICUの室長として着任して1年目のときで、看護師がよく触るところにどれだけの黄色ブドウ球菌が存在するかを調べていただきました。

笹原

黄色ブドウ球菌というのは、人体の常在細菌叢を構成する細菌の一つであり 、通常の免疫抵抗力を持つお子さんなら定着しても特に大きな問題にはなりません。しかし、その中でも院内感染の原因となる耐性を獲得したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、発育不良などでNICUに入院してくるお子さんたちにとっては非常に大きな脅威となります。そこで、私たちは、日常的にこれらの細菌が付着していそうなところを綿棒で拭き取り、その菌数を調べました。すると、なぜここにこれほどの菌が付着するのだろうという場所が見つかり、その一部はMRSAでました。

仲辻

どのようなところから見つかったのでしょうか。

上野

面会者用ドアの内側ドアノブやベッド柵などはある程度想像していましたが、パソコンのキーボード、赤ちゃんにミルクを投与したことを記録するバインダーの裏面、バインダー記録用ボールペンのグリップ部分、閉鎖式の保育器の操作口付近の内面、そしてベッド周辺の床面からも検出されました。

その当時、床は通常清掃、ドアノブは拭き取り清掃を行っていましたが、キーボードやボールペンやバインダーは除菌清掃は行っていませんでした。
NICUに入る子供たちは基本的に生まれてすぐ運ばれてきますので、外界との接点があるのは私たちだけです。その私たち周囲から多くの菌が検出されたことに大きなショックを受けました。

笹原

もちろん、その時点で考えられる範囲での感染対策として除菌清掃は行われていたのですが、調査により汚染対策が不十分であったことが明らかとなりました。それで、汚染対策の一環としてボールペンのグリップ部分を銅製にしたものを試作し看護師さんたちに2年ほど使ってもらって、普通のボールペンとの比較で再び実証実験を行いました。すると、間もなく銅の劇的な抗菌効果が確認され、その効果が2年経っても損なわれないことが分かりました。

上野

私、このボールペンを使ってると、愛着がわいてきて銅のファンになったんです(笑)。手を洗う場所がない、消毒もできない、でも水が飲みたい――。そんなときに、とりあえず私はこの銅製ボールペンを握るようにしています。

笹原

銅製ボールペンを握った手指は、金属特有の匂いがしますね(笑)。

上野

でも、これを30分ぐらい握っているときもあります。

仲辻

まさに「命を守るのボールペン」ですね。

上野
はい、命だけでなくて、何気ないのですが、とても大切な日常生活を守ってもらえてると信じております。

【Part.2】数十年経っても変わることのない銅の抗菌力

銅の抗菌力の持続性については、【Part.2】でご紹介しています。
Part.2「数十年経っても変わることのない銅の抗菌力」に続く

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