住友金属鉱山の磁石材料「Wellmax®」は、車載用モーターをはじめとしたさまざまな用途で使用されています。住友金属鉱山が40数年にわたり研究開発を重ね製造している磁石材料「Wellmax®」。その中でもサマリウム鉄窒素磁石材料は、EV(電気自動車)の普及を始めとするさまざまな分野で電動化、小型化が進む中、新たな磁石材料として注目を集めています。
前編では希土類、特に磁石で使われる希土類の資源問題を中心にお話しいただきました。後編では希土類磁石のモーターや当社が手掛けるサマリウム鉄窒素系磁石材料[以下、SFN(エスエフエヌ)]の可能性や社会的意義などを、アルコニックス株式会社 執行役員 電子・機能材本部本部長の木山茂様と、住友金属鉱山株式会社 機能性材料事業本部 粉体材料事業部長 佐伯典之に語っていただきます。
※対談者プロフィール、希土類磁石の価格推移や供給については、「【前編】希土類磁石の価格高騰と、サマリウム鉄窒素磁石材料の可能性」でご紹介しています。
前編を見る
自動車のモーターに使われる希土類磁石
希土類磁石は自動車のモーターによく使用されていますが、現状どのような課題が見られますか?
ひと口にモーターといっても、自動車には、最も大きな駆動用のモーター以外にも100個前後ものモーターが載せられています。強い磁石を使うと小型・軽量・高効率になるのでネオジム磁石も多く用いられています。その中にはネオジム磁石からサマリウム鉄窒素磁石に置き換えられるところと置き換えられないところ、もしくは置き換えないほうが良いところもがあるのですが、置き換えられるところを増やしていけば市場構成も違ってきますし、将来の需給バランスを見通しても、それが地球にとってきっと良い手段になっていくはずです。
確かに駆動部分のモーターに今使われているネオジム磁石は焼結磁石ですので、我々が持っているボンド磁石材料で置き換えられるようなものではありません。樹脂に混ぜて成型するサマリウム鉄窒素磁石では能力的にかなりの差があります。もちろん、ネオジム磁石に追いつき追い越すための研究開発は継続しつつ、サマリウム鉄窒素磁石で十分に代替できる部分に関しては、我々の材料を使っていただく。我々の材料を使いこなしていただくには、お客様にもひと工夫、ひと手間をかけていただかなければいけないところもあるのですが、そこは「X-MINING」を通して情報発信をしていくなかで事業の共創を図っていけたらと思っています。
モーターの小型化・軽量化・低価格化を実現するサマリウム鉄窒素磁石
ボンド磁石をネオジム磁石からサマリウム鉄窒素磁石に変えることのメリットはどのようなところにありますか?
ネオジムボンド磁石においては、ネオジムとサマリウムという希土類元素の違いのほかに圧縮成形と射出成形という製法が違い、射出成型であるサマリウム鉄窒素磁石の方が密度も小さくなることから小型化や軽量化を図ることができます。現在はあらゆるものが小型化されてきていますが、それを実現するためには小さく軽いモーターが求められます。そうした用途において「SFN」は効果を発揮します。
我々の研究開発が進み、サマリウム鉄窒素系の焼結磁石が可能となれば、駆動部分についてもネオジム磁石の一部でも置き換えられるようになり、それは供給面での市場の安定性や価格的な安定にも繋がると思います。
EVでいえば、車体の重量そのものを軽くしていく話とも連動してきますよね。EVは充電の問題も指摘されていますが、そこには電池の問題があり、充電するためのユニットは駆動用モーターの性能につながっているところもあります。全体的にそれぞれが機能アップをしていくというところが必要になってくるのかなと思います。
もう一つ、サマリウム磁石は他の希土類磁石に比べて錆びにくい特性もあります。たとえばネオジム磁石などは錆びやすいためにほとんどの場合塗装されていますが、SFN磁石は用途によって塗装なしでも使えます。塗装は通常、揮発性が高い有機溶媒を用いるため環境負荷の増大につながる側面がありますので、環境に優しい材料ということも言えると思います。
また、サマリウム磁石と言えばサマリウムコバルト磁石があります。サマリウムコバルト磁石も錆びにくく耐熱性が高いという特徴があります。しかし、マイナーメタルであるコバルト(Co)は産出量が少なく価格が不安定なため、市場でのサマリウムコバルト磁石の使用量は僅かです。
この点、SFN磁石はサマリウム以外の希少元素を含まないので価格高騰リスクの低い材料と言えると思います。
酸化サマリウム
人体への安全性という面では希土類鉱石は放射性物質を含んでおりますが、それを分離した後の磁石材料に含まれる元素は基本的に問題ありません。分離の際の管理とその残渣の取り扱いをしっかり行うことが重要です。
そういう意味では、希土類に関しては精製された希土類そのものよりもむしろ、そういう鉱石を実際に掘っている場所のほうが問題になりますね。
そうですね。希土類自体は世界各地、いろいろなところに資源として存在しているわけですが、放射性物質の管理をしっかりしながら生産ができるというところというのは非常に限られています。現在の供給地が中国にかなり偏っているのもそうしたことが要因の一つですが、依存が続くことは供給量や価格の面でバランスを崩すことにつながる恐れがあるわけで、今後は供給地がしっかり分散されるべきだと思います。最近ではアメリカやオーストラリアでの生産も増えてきていますが、今後そうした動きはさらに加速すると思います。
希土類価格の高騰は資源の有効活用を進める好機
「SFN」には一つの機会、チャンスが今来ているのだと思っています。磁石材料に限らず資源不足の課題に対しての解決策はチャレンジの部分は非常に大きいとは思いますが、現場でお客様からいただく生の要望をメーカー様にフィードバックさせていただきながら、ニーズに沿った材料提供に貢献していきたいと思います。また、材料を仕入れ開発は自社で行うという企業様もなかには多いため、純粋な材料販売の線も狙っていくべきポイントの一つだと思っています。特にヨーロッパに関してはEV分野で確実に需要がありますので力を入れていきたい地域の一つです。
一つの具体例でいえば、先程も話が出た「塗装をするかしないか」という点においても、使う側にとってはそのひと手間が大きなコストにつながる可能性があるわけですよね。そこを「SFN」を使うと大丈夫です、というふうにアプローチができるかもしれません。アイデアは我々から湧き出てくるというよりも、「お客様のニーズがあって」というところがまずは入り口になると思いますので、それを引き出しながら市場の材料理解を広げていきたいと思います。
我々のなかにも、多分ここには「SFN」が使えるだろうという想いはたくさんあります。たとえば先ほどから話に出ている車に関しても、モーターを冷やす必要があり、また電池も充放電しているときは熱を持つので冷やす必要がある。その際の冷却ファンに複雑な形状でも成形できる「SFN」の用途はあると思っています。そうしたアイデアを提供すれば、それを踏まえてメーカー様からさまざまな課題も上がってくると思いますので、そのフィードバックをうまくキャッチすることが重要になると思っています。
こういった材料の良さを伝えて技術的なフォローをしながらお客様のところに入り込み、使っていただくための道筋を作っていくのが一番難しいところですね。
そうですね、ただチャンスを的確に捉えて課題の解決を進めていきたいと思っています。
「住友金属鉱山の材料って何のために作られているの?」という質問をよくいただくのですが、問題になっているような将来の資源不足に対して有効な手を打つというのがその理由になると思います。色々な分野の協力も得ながら、社会課題の解決に貢献できる材料開発を進めていきたいと考えています。
※本対談で紹介している当社SFN材料の詳細については
希土類磁石材料
の製品紹介ページをぜひご覧ください。
※2022年8月取材
※取材は事前の検温、手指の消毒、換気の実施やソーシャルディスタンスを保つなど感染症を対策して行い、撮影時のみマスクを外しました。
X-MININGとは
「X-MINING(クロスマイニング)」は、住友金属鉱山のDNAのもとに新たに始まる、未来を見据えた新しい共創のかたちです。
日本を代表する資源製錬会社の一つ住友金属鉱山には、積み上げた独自の技術と素材力があります。その技術や素材力も今や私たちの手の中でのみ守り育てる時代ではなくなりました。ならば、それらを有効に活用しイノベーションを実現するにはどうすべきか。その答えを共に探すパートナーと技術の創出や課題の解決に取り組むプロジェクトが「X-MINING(クロスマイニング)」です。
本ウェブサイトでは、材料の機能や技術、SDGsに貢献するソリューション事例など幅広く紹介します。当社製品と皆様のアイデアを”共創"(クロス)させ、社会にインパクトを与える新たな価値を“掘り起こすこと”(マイニング)を目指します。